二つのニュースが示すガバナンスの共通課題
最近、二つの気になるニュースが報じられました。一つは大手菓子メーカーによる原材料の産地偽装問題。農水省が是正指示を出した事例です。もう一つはエネルギー大手BPの会長解任劇。7カ月という異例の短期間でのスピード解任に、ガバナンスの専門家として注目しました。
一見すると全く異なる二つの出来事。しかし、中小企業の経営者として見逃せない共通点があります。それは「ガバナンスの番人」そのものがリスクになり得るという点です。
BPの事例では、会長という最高位のガバナンス責任者が、自ら不祥事の中心にいました。菓子メーカーの事例では、原材料調達から表示までのプロセスを管理する責任者が、不正を見逃していた可能性があります。
これらのニュースは、中小企業のガバナンスに潜む「見えない死角」を浮き彫りにしています。
「番人」が死角になる構造
多くの中小企業では、社長や専務など限られた経営陣がガバナンスの全てを担っています。この構造には大きなリスクがあります。
BPの会長解任劇を詳しく見てみましょう。BPの会長は、本来なら経営陣を監督する立場です。しかし、彼自身が過去の不祥事に関与していたことが発覚し、解任されました。
つまり、ガバナンスを監視する立場の人間が、監視される側の不正に加担していたのです。
中小企業ではこの構造がさらに顕著です。社長が経営とガバナンスの両方を担う場合、誰が社長を監視するのでしょうか。社長が不正に手を染めた場合、それを止める仕組みが存在しません。
菓子メーカーの産地偽装も同様です。原材料の調達責任者が、コスト削減のために産地を偽装する判断を下した場合、それをチェックする仕組みがなければ、不正は長期化します。
ここで重要なのは、「番人」自体をチェックする仕組みの欠如です。大企業なら社外取締役や監査役がその役割を果たしますが、中小企業にはそうしたリソースがありません。
中小企業が今日からできる三つの対策
では、中小企業の経営者はどうすればいいのでしょうか。予算や人員が限られている中で、すぐに実践できる対策を三つ紹介します。
対策1:情報の非対称性を減らす
ガバナンスの死角は、情報が一部の人間に集中することで生まれます。社長だけが全ての情報を握っている状態は危険です。
具体的には、以下のような工夫が効果的です。
・経理データを複数人で確認できる体制を作る
・重要な取引先との契約書は、社長以外の管理職も閲覧可能にする
・定期的に外部の専門家(税理士や弁護士)に業務プロセスをレビューしてもらう
これらの施策は、特別なシステムを導入しなくても、既存のツールで実現できます。
対策2:「ワンマン決定」を避けるルールを作る
中小企業では、社長が全てを決定する「ワンマン経営」が一般的です。しかし、これがガバナンスの最大の死角になります。
特に以下の判断は、必ず複数人の関与を義務付けるルールを作りましょう。
・取引先の選定や変更
・原材料や製品の品質基準の変更
・販売価格の大幅な変更
・新規事業への参入決定
これらの判断を社長一人で行う場合、必ず経理責任者や現場責任者を交えた会議を開き、議事録を残す習慣をつけましょう。
対策3:「想定外」を想定した訓練を行う
BPの会長解任劇で驚かされたのは、7カ月という短期間で発覚したことです。つまり、どんなに強固なガバナンス体制でも、想定外の事態は起こり得ます。
中小企業では、年に一度程度、以下のような架空の事例を使って訓練することをお勧めします。
・もし社長が突然入院したら、誰が経営を引き継ぐのか
・もし主要な取引先が倒産したら、どう対応するのか
・もし社内で不正が見つかったら、誰が調査し、どう報告するのか
これらの訓練を通じて、ガバナンスの死角を事前に発見できます。
「設計」としてのガバナンスに転換する
ここまで読んで、「うちの会社にはそこまでの仕組みは必要ない」と思った方もいるかもしれません。
しかし、産地偽装やBPの事例は、どんな規模の企業でも起こり得ることを示しています。むしろ、中小企業こそガバナンスの死角が大きく、一度不正が起きると会社の存続に関わる深刻な事態になり得ます。
ガバナンスは「違反しないためのルール」ではありません。「事業を守り、成長させるための設計」です。
BPの事例は、トップ自身が不正に加担するリスクを私たちに教えています。菓子メーカーの事例は、現場レベルでの不正が長期化するリスクを示しています。
これらのリスクから会社を守るためには、日頃から「誰かが監視している」という状態を作っておくことが重要です。そのための仕組みを、今日から少しずつでも構築していきましょう。
具体的なアクションとして、まずは来週の経営会議で、以下の議題を取り上げてみてください。
・現在の意思決定プロセスに、複数人によるチェックは入っているか
・社長が全てを決めている領域はないか
・もし社長が不正をした場合、それを止める仕組みはあるか
これらの問いに向き合うこと自体が、ガバナンスの第一歩です。

