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「熱い」禁止の本質、コンプラが奪う判断力

リスク設計

テレビが失った「熱い」という言葉

お笑いタレントの出川哲朗さんが、テレビ業界のコンプライアンスが厳しくなった現状について「『熱い』って言わないでくださいって言われた」と暴露したニュースが話題です。出川さんは「熱い」という言葉すら使えなくなった現場の空気を、自身のラジオ番組で明かしました(出典:ニコニコニュース)。

一見すると笑い話ですが、これは中小企業のガバナンスにも深く関係する問題です。コンプライアンスが「過剰」になると、現場の判断力が奪われ、組織の成長エンジンが停止する。この構造を、今日は一緒に考えてみましょう。

コンプラが「禁止」に変わるとき

テレビ業界で起きているのは、コンプライアンスが「リスク回避」から「言葉狩り」に変わった状態です。「熱い」という発言が、やけどや事故を誘発する可能性を懸念して禁止されたのでしょう。しかし、この判断には根本的な誤りがあります。

コンプライアンスの目的は「事業目的の達成」にあります。テレビ番組の目的は視聴者に楽しさや感動を届けること。そのために「熱い」という言葉で盛り上げるのは、むしろ本質的な行為です。禁止することで、番組の魅力は確実に低下します。

中小企業でも同じことが起きています。「クレームが怖いから新しいサービスはやめよう」「過去にトラブルがあったからこの取引は禁止」「法律にグレーゾーンがあるから企画自体を却下」。こうした「0か100か」の思考が、気づかないうちに組織の可能性を狭めています。

禁止の連鎖が生む「思考停止組織」

私が支援したある中小企業では、総務部長が「コンプライアンス強化」を掲げ、全社員宛に「〇〇してはいけない」という禁止事項リストを配布しました。内容は以下のようなものでした。

  • お客様への過剰なサービス提供の禁止
  • 仕入先との飲食を伴う会合の禁止
  • SNSでの会社名使用の禁止

一見すると安全に見えますが、この会社の売上は半年で15%減少しました。なぜか?現場が「何をしても怒られる」と萎縮し、新しい提案や顧客対応の工夫が一切出てこなくなったからです。営業担当者は「お客様から食事に誘われても断るしかない」と嘆いていました。

これが「コンプライアンスの暴走」です。ルールは現場の行動を制限することでリスクを減らしますが、同時に創造性や機動性も削ぎます。そのバランスを誤ると、組織は「安全だけど何も生み出せない」状態に陥ります。

「1〜99」のリスク設計が答え

では、どうすればいいのか。答えは編集方針にもある「1〜99のリスク設計」です。

「熱い」という言葉を例に考えましょう。この言葉には確かにリスクがあります。やけどをした人が「熱い」と言うべきでない場面もあるでしょう。しかし、すべての「熱い」を禁止するのではなく、以下のように条件を設定するのが正しい設計です。

  • やけどや事故の可能性がある現場では「熱い」の使用を控える
  • スタジオ収録など安全が確保された場面では「熱い」を自由に使う
  • もし使う場合は、周囲に危険がないことを確認するルールにする

これが「1〜99」の考え方です。リスクを0にしようとすると「熱い」を完全禁止するしかありませんが、リスクを許容範囲に抑えるなら、場面や条件で使い分ければいい。この柔軟性が、現場の判断力を殺さない秘訣です。

中小企業が実践すべき3つのアクション

では、あなたの会社で今日からできることを3つ挙げます。

1. 「禁止リスト」を「条件付き許可リスト」に変える
現在の社内ルールを点検し、「〇〇してはいけない」を「〇〇する場合は、△△の条件を満たすこと」に書き換えてください。例えば「仕入先との飲食禁止」を「仕入先との飲食は、事前に上司の承認を得て、1人5,000円以内とする」に変更する。これだけで現場の自由度は格段に上がります。

2. 判断の「可逆性」を意識する
「熱い」を使う判断は、後から「やっぱりやめよう」と戻せます。これが「可逆性が高い」判断です。一方、新工場の建設は簡単には戻せません。コンプライアンスルールは、可逆性の高い判断ほど緩く、可逆性の低い判断ほど厳しく設定するのが原則です。この基準でルールを見直してみてください。

3. 現場に「判断の理由」を求める
「なぜその判断をしたのか」を言語化させる習慣をつけましょう。私のクライアントでは、毎朝の朝礼で「今日、あえてリスクを取るとしたら何か?」を一人一言ずつ発表する企業があります。これにより、社員は「リスクを取ること」と「禁止されること」の違いを理解し始めます。

ガバナンスは「守り」ではなく「設計」

出川さんの暴露は、私たちに「過剰なコンプライアンスが現場を殺す」というシンプルな真実を教えてくれます。中小企業の経営者として、あなたが目指すべきは「ルールで縛る組織」ではなく「判断力のある組織」です。

コンプライアンスは、事業目的を達成するための道具です。道具が目的化して、本来の事業を阻害しているなら、それは設計ミスです。ぜひ今日から、自社のルールを「0か100か」から「1〜99」の設計に変える一歩を踏み出してください。

現場の「熱い」を奪うのではなく、適切に「熱く」なるための設計を。それが、これからの中小企業に求められる真のガバナンスです。

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