不正の「兆候」を見逃さない統治設計

モーター大手のニデックで不正会計が発覚しました。中国新聞デジタルやau Webポータルの社説でも取り上げられているとおり、同社は創業以来の急成長を遂げてきた優良企業です。だからこそ、このニュースは中小企業の経営者にとっても無関係ではありません。

「うちは上場企業じゃないから関係ない」と思うかもしれません。しかし、不正の構造に規模は関係ありません。むしろガバナンス体制の弱い中小企業のほうが、同じ問題を起こしやすいと言えます。

この記事では、ニデックの不正問題を素材に、中小企業が自社に応用できる統治設計のポイントを解説します。焦点を当てるのは、「不正の兆候をどう見つけるか」です。

不正は突然起きるものではない

多くの経営者は「うちの社員はそんなことはしない」と考えがちです。しかし不正の多くは、計画的に行われるのではなく、小さな「ずる」が積み重なって起きます。

ニデックのケースでも、長い期間にわたって不正が続いていた可能性が指摘されています。最初から大規模な不正を企てていたのではなく、ある時点の「ちょっとした調整」が習慣になっていったと推測できます。

大切なのは、不正を「人」の問題ではなく「仕組み」の問題として捉えることです。どれほど優秀な社員でも、プレッシャーと機会がそろえば、不正に手を染める可能性はゼロではありません。

不正の3要素を理解する

不正が起きるには、「プレッシャー(動機)」「機会」「正当化」の3要素がそろう必要があると言われています。このうち、企業がコントロールできるのは「機会」です。

中小企業では、経営者や特定の社員に権限が集まりがちです。その結果、チェックが働かず、不正の機会が生まれやすくなります。

兆候を見逃さない仕組みをつくる

不正を完全に防ぐのは難しいかもしれません。それでも、早く見つける仕組みならつくれます。鍵になるのは、「兆候」を捉える設計です。

数字の異常に気づく

不正の多くは、数字の異常として表れます。たとえば次のようなケースです。

  • 売上は順調なのに、利益率が急に改善した
  • 特定の部門だけが異常に業績が良い
  • 経費の申請パターンが突然変わった
  • 在庫と帳簿の数字が合わない

中小企業では、経営者がすべての数字を見渡せる立場にあります。月次の数字を「なんとなく」眺めるのではなく、「なぜこの数字になったのか」と問いを持つ習慣が大切です。

行動パターンの変化に目を向ける

数字だけでなく、社員の行動の変化も重要な兆候です。たとえば次のようなサインです。

  • 残業が急に増えた(または減った)
  • 休日出勤を頻繁にするようになった
  • 経理や会計の担当者が説明を避ける
  • 特定の取引先との関係が異常に密接

こうした変化が、必ずしも不正を意味するわけではありません。しかし、何かが起きているかもしれない「シグナル」として受け止めるべきです。

中小企業が今すぐ実践すべきこと

ここからは、具体的なアクションを紹介します。大企業のような高度な内部統制システムは要りません。中小企業の規模に合ったやり方で十分です。

1. 定期的なローテーションを取り入れる

同じ人が長いあいだ同じ業務を担当していると、不正の機会が生まれやすくなります。できる範囲で、担当業務を定期的に入れ替えましょう。

経理と出納を別々の人が担う「職務分掌」は基本中の基本です。そのうえで、半年に一度ほど担当者を入れ替えれば、互いのチェックが働きます。

「うちは人手が足りない」という声も聞こえてきそうです。その場合は、経営者自身が定期的に帳簿を確認する習慣をつけましょう。外部の税理士に頼んで、定期的にチェックしてもらう方法もあります。

2. 「なぜ」を5回繰り返す文化をつくる

数字や行動に異常を感じたら、「なぜそうなったのか」を掘り下げる習慣をつけましょう。トヨタ生産方式で知られる「5回のなぜ」は、不正の兆候を見つけるのにも役立ちます。

たとえば売上が急に伸びたなら、「なぜ売上が伸びたのか」→「新しい営業手法を試したから」→「なぜその手法が効果的だったのか」→「特定の顧客からの大口受注があったから」→「なぜその顧客からの受注が増えたのか」と掘り下げていきます。

その途中で不自然な点が見つかれば、さらに深く掘ります。大切なのは、「なんとなく」で終わらせないことです。

3. 内部通報制度を整える

内部通報制度は、不正を早く見つけるための最も効果的な手段の一つです。ただ、中小企業では「社内で通報なんてできない」という空気が強いのも事実です。

そこで、顧問弁護士や社外の相談窓口といった外部の専門家を活用する方法があります。匿名で通報できる仕組みを整えれば、社員も安心して情報を寄せられます。

欠かせないのは「通報者ファースト」の姿勢です。通報した社員が不利益を受けないことをはっきり示し、実際に守る仕組みが必要です。

4. 定期的な監査を行う

中小企業が内部監査の専門部署を置くのは難しいでしょう。それでも、外部の専門家による定期的な監査なら可能です。

たとえば年に1回、税理士や公認会計士に「簡易的な監査」を頼む方法があります。費用はかかりますが、不正を早く見つけられる可能性は高まります。

経営者自身による「抜き打ちチェック」も効果的です。予告なしに特定の部署や取引を確かめることで、不正の抑止につながります。

まとめ:統治設計は「人」ではなく「仕組み」で

ニデックの不正問題は、どんな企業にも同じことが起こりうると示しています。大切なのは、不正を起こした個人を責めることではなく、不正が起きにくい仕組みをつくることです。

中小企業の経営者には、次の3つを意識してほしいと思います。

  • 不正の兆候は、数字や行動パターンの「異常」として現れる
  • 「なぜ」を繰り返す文化で、異常を見逃さない
  • 外部の専門家を活用して、チェック機能を強化する

「ガバナンスは守りではなく設計技術」というのが、このメディアの基本の立場です。不正を防ぐ仕組みは、事業を守り、成長を支える土台になります。

一度、自社の現状を点検してみてください。何か「違和感」はありませんか。その違和感こそが、改善の第一歩です。