ITと経営 / 総論
成長期にITが壊れ始める理由
2025-10-24
ITの問題が表に出てくるのは、成長が止まったときだと思われがちです。しかし多くの企業では逆で、事業が伸び、売上が過去最高を更新している成長期のさなかに起こります。
事業はうまくいっているはずなのに、なぜITだけが限界を迎えるのか。この記事では、それを技術の話ではなく、経営判断と設計の不在がもたらす必然として整理します。
壊れているのは「システム」ではなく「前提」
成長期のITトラブルは、障害が増える、改修が遅れる、全体像が分からなくなる、といった形で現れます。
しかし、実際に壊れているのはコードやインフラそのものではありません。成長の初期に置いた前提条件が、今の事業規模に耐えられなくなっているのです。
初期のITは「少人数」を前提に作られている
立ち上げ期のITは、限られた人数、限られた業務量、限られた例外を前提に設計されています。その前提の下では、人が判断し、調整し、例外を吸収するのが最も速く、合理的なやり方でした。
成長すると、例外が爆発的に増える
事業が成長すると、顧客の属性は多様になり、取引のパターンは増え、組織や拠点も増えていきます。すると例外処理の総量が指数関数的に膨らみ、これまで人が吸収してきた例外を、もう人では処理しきれなくなります。
変更のコストが突然跳ね上がる
成長初期には「少し直せば動く」「夜間対応でなんとかなる」と思えていたシステム変更が、成長期に入ると一変します。影響範囲が読めない。直すのが怖い。触るたびにどこかが壊れる。
再現性と境界が設計されていないITが、必然的にたどり着く状態です。
技術的負債は「成長の証」でもある
成長期に表面化する技術的負債は、手を抜いた結果でも、技術選択を誤った結果でもありません。成長の速度を最優先するという経営判断の副作用です。
問題は、その副作用をいつ回収するのか、誰が判断するのかを決めていなかったことにあります。
ITが「成長を止める存在」に見え始める
この段階になると、事業側からは「ITがボトルネックだ」「ITが遅い」「ITが足を引っ張っている」と見えてきます。
けれども、それはITが劣化したからではありません。成長のフェーズが変わったのに、そのフェーズに合わせて設計が更新されなかったからです。
壊れたのはITではなく、判断の不在
成長期にITが壊れ始める最大の理由は、経営が次のことをはっきりさせなかった点にあります。いつまで初期の前提で走るのか。どこで設計を切り替えるのか。その判断を誰が引き取るのか。
壊れたのはITではなく、判断が存在しなかったことなのです。
「今は仕方ない」が当たり前になる瞬間
この段階では、「今は忙しいから」「成長が落ち着いたら」「次のフェーズで」という言葉が繰り返されます。
しかし、成長期が終わる前に設計を更新するタイミングは結局訪れません。問題は慢性化し、負債は積み上がり、最後には全体を作り直すしか選択肢がない状態に追い込まれます。
まとめ:問うべきは「どのフェーズまで使うと決めていたか」
問うべきは「なぜITが壊れたのか」ではありません。「どの前提で作ったITを、どのフェーズまで使うと決めていたのか」です。
次稿では、ツール導入が止まらなくなる構造を取り上げ、成長期の場当たり的な対応が、なぜITをさらに複雑にしていくのかを見ていきます。