ITと経営 / 経営判断としてのIT

なぜ事業ITは常に人手不足なのか

事業を支えるIT、いわゆる事業ITは、多くの企業で慢性的な人手不足に陥っています。採用しても追いつかない。優秀な人ほど疲れ切って辞めていく。現場はいつも「今が一番きつい」と感じています。

この状態は、採用難や人材不足の話として語られがちです。しかし本質的には、事業ITは構造的に人手不足になるよう設計されている、と言ったほうが正確です。

この記事では、事業ITがなぜ常に人手不足になるのかを、人の問題ではなく、経営判断とIT設計がもたらした結果として整理します。

事業ITは「速度最優先」で生まれる

事業ITの多くは、新規事業の立ち上げ、急成長期への対応、市場機会への即応といった場面で生まれます。そこで一貫して最優先されるのは、成長の速度です。

「今すぐ動かす」「とりあえず回す」「後で直す」。事業の観点から見れば、どれも合理的な判断でした。

だから「人で埋める設計」が選ばれる

速度を最優先するなら、最も確実なのは人を増やすこと、優秀な人に頼ること、個別対応で乗り切ることです。設計には時間がかかり、再現性はすぐには作れず、ITで仕組みを固める余裕もありません。こうして事業ITは、最初から人に依存する形で設計されます。

再現性がないまま規模だけが大きくなる

問題は、この人依存の構造が、成長した後も、組織が大きくなった後も、事業が成熟した後も、そのまま引き継がれることです。再現性を設計しないまま事業が拡大すると、次のようなことが起こります。

  • 判断が増え続ける
  • 例外対応が増殖する
  • 人にしか分からない処理が残る

こうして仕事の総量が人の処理能力を必ず上回り、負荷の高い状態が慢性化します。

人手不足は「原因」ではなく「結果」

この段階に来ると、「人が足りない」「採用が追いつかない」「現場が疲弊している」という症状が出てきます。しかし、どれも再現性を設計しなかった結果として表れている現象です。設計が根本から変わらないかぎり、人を増やしても人手不足は解消しません。

事業ITは「仕事を増やす装置」になりやすい

本来、ITは判断を減らし、例外を構造に落とし込み、人が介在する場面を減らすための装置でした。

ところが事業ITでは、ツールが増え、データが増え、連携が複雑になるにつれて、仕事の総量そのものが増えていきます。これも、目的関数、つまり何を最優先するかが「速度」に固定されたままだからです。

優秀な人ほど早く限界を迎える

事業ITの現場で重宝されるのは、判断力が高く、文脈をすぐに理解し、臨機応変に動ける人です。しかしそれは裏を返せば、その人に仕事が集中し、代わりがきかず、休めなくなる構造でもあります。こうして、優秀な人ほど早く疲れ果て、現場を去っていきます。

欠けていたのは「いつ切り替えるか」の経営判断

大事なのは、現場が無理をしたからでも、IT担当が頑張らなかったからでもない、という点です。

欠けていたのは、「いつまで人で回すのか」「どこから再現性に切り替えるのか」「その判断を誰が引き取るのか」という経営判断でした。これはIT戦略やDX(デジタルトランスフォーメーション)の根幹に関わる問題です。

人手不足を解消する唯一の方法

事業ITの人手不足は、採用を増やしても、外注に出しても解消しません。必要なのは、人で回している判断を特定し、構造に落とし込み、ITで固定する「目的関数の切り替え」です。言い換えれば、IT投資の優先順位を「速度」から「再現性と拡張性」へ移すことです。

まとめ:問うべきは「なぜ人で回す前提を変えなかったのか」

問うべきは「なぜ人が足りないのか」ではありません。「なぜ人で回す前提を、いつまでも変えなかったのか」です。持続可能なシステム戦略を築くには、この根本的な問いに向き合うことが欠かせません。

次稿では、成長期にITが壊れ始める理由を取り上げ、この人手不足の構造がどのように技術的・組織的な破綻へつながっていくのかを見ていきます。