ITと経営 / 総論
BizOpsはなぜ属人化するのか
2025-11-02
SaaSが普及し、データも揃った。一見すると、事業運営は以前よりはるかに見える化されたように思えます。
ところが現実には、数字を正しく読み解き、全体を理解できる人はごく一部に限られ、その人がいないと意思決定が止まってしまう。そんな企業が少なくありません。その中心にいるのが、BizOps(ビズオプス)と呼ばれる役割です。
この記事では、BizOpsがなぜ高い確率で属人化するのかを、スキルや能力の問題ではなく、事業ITと経営判断の構造から生まれる結果として整理します。
BizOpsは「全体をつなぐ役割」として生まれた
部門ごとに分かれたSaaS、つながらないデータ、ばらばらのKPI。BizOpsは、それらを横断してつなぎ、事業を前に進めるために生まれた役割です。営業、マーケティング、オペレーション、ファイナンスと部門をまたいで数字を見て、判断できる存在。それがBizOpsに寄せられた期待でした。
BizOpsが埋めているのは「設計されなかった空白」
本来、データの定義、判断の基準、部門間の接続は、ITシステムやプロセスとして設計されているべきものでした。
それが無いと、どの数字を見るべきか、どこまでを正しいとするか、矛盾が起きたらどう解釈するかを、人がその都度判断するしかありません。BizOpsは、この「設計されなかった空白」を人の力で埋めているのです。
属人化は、優秀さの副作用
BizOpsが属人化するのは、能力が低いからではありません。むしろ逆です。
文脈をすぐ理解でき、数字の矛盾に気づけ、部門ごとの言葉を翻訳できる。そんな優秀な人ほど判断が集まり、調整が集中し、「あの人に聞けば分かる」状態ができあがります。属人化は、能力の高さが必然的に引き起こす結果なのです。
人が「意思決定装置」になってしまう
ITが本来担うべきだったのは、判断基準を固定し、データの意味を揃え、判断を再現できるようにすることでした。
それが設計されていないため、BizOpsは次第に、数字を解釈し、文脈を補い、経営判断を支える「生きた意思決定装置」になっていきます。こうなると、BizOpsが抜けた瞬間に、事業の判断スピードは一気に落ちてしまいます。
仕組み化されないのは、そう設計されていないから
BizOpsの仕事が仕組み化されない理由として、よく「判断が暗黙的で、例外が多く、正解が一つではないから」と言われます。
しかし、それは理由ではなく結果です。そもそもITシステムやプロセスが、仕組み化される前提で設計されていなかった。BizOpsは、設計されなかった判断と、統合されなかったデータを背負わされているのです。
BizOpsを増やしても解決しない
属人化が問題になると、BizOpsを増員したり、専任チームを作ったりする対応がとられがちです。
しかし、判断の構造が根本から変わらない限り、属人化は分散されるだけです。判断の整合性は下がり、混乱はむしろ増えます。問題は人数ではなく、判断をどこに置くかというIT戦略上の設計にあります。
欠けていたのは、境界を決める経営判断
BizOpsが属人化する最大の理由は、経営が次のことを定義しなかった点にあります。どの判断を構造(システム)に落とすのか。どの判断を人に残すのか。そして、その境界を誰が決めるのか。
その結果、人が判断を背負い、人が調整を吸収し、人がシステムの代わりを務める構造が固まってしまいました。これはIT投資やDX(デジタルトランスフォーメーション)の根幹に関わる経営課題です。
問うべきは「なぜ人が意思決定装置になっているのか」
ここで問うべきは、「BizOpsは優秀か」でも「属人化は悪か」でもありません。「なぜ人が意思決定装置になっているのか」「本来、どの判断をITに任せるべきだったのか」です。
次稿では、「今は仕方ない」が当たり前になる瞬間を取り上げ、BizOpsによる人力の最適化が、どのように技術的負債と意思決定の停滞を生んでいくのかを見ていきます。