ITと経営 / 失敗の構造
IT分断は誰の失敗なのか
2025-09-16
IT分断の原因として語られるのは、たいてい現場のツール乱立、情シスの保守的な姿勢、ベンダーへの依存といったものです。
しかし、これらは結果として表に出てきた現象にすぎません。この記事では、IT分断を「誰の失敗か」という責任論ではなく、経営判断の構造から整理し直し、本当の原因を明らかにします。
分断は「たまたま起きた事故」ではない
最初に押さえておきたいのは、IT分断が偶然の事故ではないということです。
事業ごとに最適なITを選び、部門ごとに合理的な判断を下す。その時点では正しかった選択が積み重なって、分断が生まれました。誰かが間違えたから起きたのではありません。全体をまとめて引き取る主体がいなかったから起きたのです。
現場は「最適解」を選び続けた
現場は、目の前の業務を回し、売上を落とさず、顧客対応を止めないという制約の中で判断しています。その中で、すぐ導入できて今日から使える個別最適の解決策を選ぶのは、きわめて合理的な行動でした。現場が分断を生み出そうとしたわけではありません。
情シスは「守るべきもの」を守った
情シス(情報システム部門)は、障害を起こさない、情報を守る、コストを抑えるという期待のもとで評価されてきました。この評価軸の中では、全社最適の設計に取り組む理由も、事業のスピードに口を出す理由も生まれません。情シスもまた、与えられた役割を忠実に果たした結果として、分断の構造の一部になったのです。
ベンダーは「求められた仕事」をした
ベンダーの役割は、求められた仕様を満たし、契約の範囲で責任を果たし、プロジェクトをやり遂げることです。全社の視点での統合や、長期的な経営構造までを引き取る立場にはありません。ベンダー依存が問題になるのは、本来は経営が担うべき判断まで委ねてしまったときです。
では、誰が失敗したのか
現場は合理的に、情シスは役割どおりに、ベンダーは契約どおりに動いていました。それでもIT分断が起きたのなら、原因は一つしかありません。分断されたITを統合する主体が、組織の中にいなかったのです。
統合されなかった理由は経営判断にある
ITを全体として統合するには、「どのITを残し、どこを標準化し、何を捨てるのか」という後戻りのできない判断が要ります。現場にも情シスにもベンダーにも、単独では引き取れない判断です。本来これを引き取れるのは、経営だけです。
IT分断は「経営の不作為」である
ただし、これを経営者個人の能力不足と結論づけてはいけません。IT分断は、ITを定義せず、判断を先送りし、統合という領域を自分たちの仕事として扱わなかった、経営構造としての不作為の結果です。
誰か一人が失敗したのではありません。経営という意思決定システムが引き取らなかった領域が、分断として目に見える形になったのです。
責任を問うとは、構造を引き取ること
ここで言う「経営の失敗」は、誰かを責めることではありません。どの判断が行われなかったのか。なぜ行われなかったのか。これから誰が引き取るのか。それをはっきりさせることです。
そこまでできて初めて、IT分断は過去の失敗から、設計し直せる経営課題、つまりDXの本質的な課題へと変わります。
第I章の結論:分断は、経営が引き取らなかった結果
IT分断は、現場の暴走でも、情シスの怠慢でも、ベンダー依存の問題でもありません。経営がITを定義せず、決断せず、責任を引き取らなかった結果です。
次章では、経営が定義してこなかった「ITの目的関数」を考え、これから何を引き取るべきかを具体的にしていきます。