ITと経営 / 経営判断としてのIT

「IT戦略」という言葉の空虚さ

多くの企業で、「IT戦略」という言葉は当たり前のように使われています。IT戦略を策定し、経営戦略と連動させ、定期的にアップデートする。

しかし、ITがこれまで経営判断の主語にならなかった企業では、この言葉はしばしば実体を伴っていません。これほど広く使われているのに、なぜ「IT戦略」は経営の武器にならなかったのか。本稿では、それを意思決定構造の観点から解体していきます。

戦略とは、本来「選択と放棄」である

戦略には、何をやるかを決めることと、何をやらないかを決めることの両方が含まれます。限られた資源の中で、どこに賭け、どこを切り捨てるのかを決める。それが戦略です。

この定義に立つと、「IT戦略」という言葉には最初から一つの疑問が浮かびます。いったい誰が、何を捨てる判断をしたのか、という疑問です。

「IT戦略」は、誰が決めたのかを曖昧にする

多くの企業では、IT戦略はIT部門が中心になって策定し、経営が承認し、現場が従うという形を取ります。この構造では、「IT部門は経営判断を下せない」「経営はITの中身に踏み込まない」という前提がそのまま温存されます。

その結果、戦略であるはずの文書に「誰の判断なのか」が書かれていない、という状態が生まれるのです。

戦略が二つ並んだ時点で、どちらも戦略ではない

「IT戦略」という言葉が使われる背景には、経営戦略の中でITを語れなかった、ITを前提に事業を設計していなかった、という事実があります。そこから、「経営戦略」と「IT戦略」という二つの戦略が並列に存在する構図が生まれました。

しかし、戦略が二つある時点で、どちらも本当の戦略ではありません。

「整合させる」という言葉が隠しているもの

IT戦略が語られる場では、「経営戦略と整合させる」「ビジネスとITをアラインさせる」という言葉がよく使われます。けれどもこの表現は、ある重要な事実を覆い隠しています。本来一体であるべきものが、すでに分断されているという事実です。

整合が必要になった時点で、その戦略はすでに失敗していると言えるでしょう。

IT戦略は「後追いの説明資料」になりやすい

多くのIT戦略が担っている役割は、すでに始まっている取り組みを整理し、既存の投資を正当化し、将来像をぼんやりと描くことです。これは戦略ではなく、説明資料です。何を止めるのか、どの判断を変えるのかが、どこにも書かれていないからです。

それでも「IT戦略」という言葉が生き残った理由

それでもこの言葉が使われ続けてきた理由は明確です。

  • 経営は関与しているように見せられる
  • IT部門は責任を持っているように見せられる

誰も最終責任を負わずに済むこの言葉は、判断が不在であることを覆い隠す便利なラベルとして機能してきました。

IT戦略が機能する、たった一つの条件

IT戦略という言葉が意味を持つとすれば、条件は一つしかありません。経営自身が、ITを通じて変えたい意思決定を明示していることです。この条件が満たされない限り、IT戦略は計画、方針、スローガン以上のものにはなりません。

誤解のないように言えば、「IT戦略」という言葉を使うこと自体が悪いわけではありません。問題は、戦略という言葉を使いながら、戦略に必要な判断を誰も引き取らなかったことにあります。

ITではなく、経営判断を主語に戻す

いま必要なのは、IT戦略を磨き直すことではありません。ITを主語にした戦略をやめ、経営判断を主語に戻すことです。

次稿では、目的関数を定義し直すという経営責任を扱い、戦略という言葉が成り立つための前提条件を明らかにしていきます。