意思決定と組織 / 総論

人を採って解決するか/業務を分解してから考えるか

事業が一定規模を超えると、組織はほぼ必ず同じ状態に入ります。現場が忙しい。判断が滞留する。経営者が細部に引き戻される。

このとき交わされる会話は、どの組織でもよく似ています。「人を増やさないと回らない」。

しかし、この言葉が出た瞬間に立ち止まらなければ、組織は同じ経営判断を何度も繰り返すことになります。人を採る前に、まず業務を分解する。それがこの記事の答えです。

原因を特定しない採用は、問題の先送りにすぎない

人が足りない、現場が回らないという状況に直面すると、多くの中小企業は「採用」を選びがちです。しかし、原因を特定しないまま人を採っても、問題は解決しません。先送りされるだけです。

原因が整理されていなければ、組織は同じ構造的な問題を抱えたまま、負荷と人数だけが増えていきます。

問題の所在を「人」に置くか、「業務構造」に置くか

本当の分岐点は、採用するかどうかではありません。問題の所在を「人」に置くのか、「業務構造」に置くのか。根本にあるのはこの判断です。

「人を採る」という判断は、問題は人手不足であり、業務の中身はおおむね把握できている、という前提を暗に含んでいます。一方で「業務を分解する」という判断は、業務の中身が実は見えていないのではないか、判断が構造として詰まっているのではないか、と疑うところから始まります。

業務を分解するとは、判断の在りかを切り出すこと

業務の分解とは、作業を細かく切ることではありません。どこで判断が発生しているのか。その判断は誰に依存しているのか。定型化・ルール化できる部分はどこか。これらを切り出すことです。

この分解をして初めて、本当に人を増やす必要がある業務はどこかを検討できるようになります。

分解せずに採ると、何が起きるか

業務を分解しないまま採用すると、次のことが連鎖的に起こります。

  • 業務を丸ごと人に渡す。
  • 期待値が曖昧なまま任せる。
  • 成果が出ない理由を説明できない。

これは採った人の能力の問題ではありません。業務を分解しなかった組織側の、組織設計と権限委譲の問題です。

反対に、業務が分解されていれば、次の選択肢が初めて現実味を帯びます。

  • 人を増やさず、業務を再配置する。
  • 定型業務だけを外注・システム化する。
  • 判断が集中する部分だけを人に任せる。

このときの採用は、単に人数を増やす判断ではなくなります。「判断を委ねる範囲を決める」という、質の高い経営判断に変わるのです。

「忙しくて分解する余裕がない」は逆さまの理屈

よくある誤解の①は、忙しいから分解している余裕がない、というものです。忙しい状態こそ、業務が構造化されていない証拠です。分解しない限り、忙しさは構造として残り続けます。

誤解の②は、優秀な人を採れば一気に解決する、というものです。実際には、優秀な人を採るほど業務はブラックボックス化しやすくなります。「何をしているか分からない」「その人がいないと回らない」。それは解決ではなく、依存構造の完成です。

まとめ:人を採るかどうかは、分解のあとで考えればいい

判断を下す前に、次の問いに答えてみてください。

  • 今、困っているのは人手か、それとも構造か。
  • 業務を分解せずに、問題を説明できるか。
  • 人を採らなかった場合、どの業務が止まるか。

即答できないなら、先に業務を分解する余地があります。

原因が特定されていない採用は、問題を先送りするだけです。まずやるべきは、業務分解を通じて問題を「構造」として扱うこと。人を採るかどうかは、そのあとで考えれば十分です。問題の所在を「人」に置くのか、「業務プロセス」に置くのか。それを決めることが、可逆性のある健全な組織設計への第一歩になります。