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AIは1秒で答える。会社の速さは判断の往復で決まる――毎秒1万4千トークンのデモから

会議室で、データを映したノートパソコンを前に経営者が考え込み、後ろで社員が待っている写真。見出しは「AIの速さで会社の速度は決まらない」

AIが1秒間に約1万4千トークンという速さで文章を出すデモが、短い動画で広まっています。この記事でお伝えしたいのは、チップの性能そのものではありません。AIがここまで速くなると、会社の速さを決めるのは、もうAIではなくなる、という話です。

会社の速さを決めているのは、人の判断の往復です。確認待ち、承認待ち、会議待ち。AIが1秒で答えを出しても、その答えを使うかどうかを決めるのに3日かかっていたら、会社の速さは3日のほうで決まります。10月18日の「試行の数で勝負する」の続きとして、この判断待ちを考えます。

デモの数字は、出どころを分けて受け取る

話題になったのは、Stability AIの元CEOで、今はIntelligent Internetを率いるEmad Mostaqueさんが、カナダのスタートアップTaalasのチップを試した様子です。Taalasは、Metaが公開しているLlama 3.1の8Bという比較的小さなモデルを、チップの回路そのものに焼き込んでいます。そのモデルしか動かせない代わりに、桁違いの速さを出す設計です。

数字は出どころを分けておきます。Taalasの公式発表では、1ユーザーあたり毎秒1万7千トークン(自社測定)。EE Timesはオンラインのデモを試して毎秒1万5千トークン超を確認し、Forbesは2026年2月19日の記事で毎秒14,357トークンの実測を伝えています。同じEE Timesの記事では、比較サイトArtificial Analysisの数字として、Cerebrasが毎秒2千トークン近く、Groqが600前後と紹介されています。なお、Taalas自身がモデルをかなり強く圧縮していると認めており、速さがそのまま答えの質を意味するわけではありません。

待っているのはAIではなく、人

たとえば、販売の担当者がキャンペーン案をAIに作らせれば、案は数秒でできます。でも課長、部長、社長と回って判子がそろうまでに1週間かかり、修正が入ればもう一往復。AIで縮まったのは、全体のほんの一部です。

判断待ちを分けると、材料がそろうのを待つ時間、決める人の予定待ち、会議の日までの持ち越し、誰が決めるかはっきりしないたらい回し、のおおむね四つです。どれも、AIの性能が上がっても縮みません。AIが速くなるほど、人の側の待ち時間が占める割合は大きくなります。

「人がじっくり検討するほど良くなる」は誤解だと考えています

判断に時間がかかるのは、慎重に検討しているからだ、という見方があります。けれども私は、多くの場合それは誤解だと考えています。本当に意味のある検討には、その分野の経験、総合的な判断力、技術の理解、トライアンドエラーへの許容性、中長期の目線がすべて要ります。全部をそろえた人は、国の中でもごく一部です。普通は、AIの案に沿って動いたほうが早く、正しい結論に近づけると私は見ています。

人の役割がなくなるわけではありません。何を成果として求めるかを決める。どこまでのリスクなら取るかを決める。試した結果を見て、次に何を試すかを決める。人の仕事は、机の上で長く考えることから、決めて、試して、結果を見ることへ移っていくと思います。

判断待ちで遅い会社は、試す回数で負ける

遅いことは時間の無駄で終わりません。試して、外れて、直して、また試す。その回数は人の成長にとっても重要で、判断待ちで回数が減れば、人の成長まで遅くなります。週に1回しか試せない会社と毎日試せる会社では、1年でざっくり50回と250回の差になり、学びはそのまま積み上がります。AIの速さはどの会社にも同じように手に入ります。差がつくのは、判断の往復をどれだけ短くできるかです。

私の法人では、システムのほぼ全体を統合しています。判断の材料が1か所にそろうので、数字を集めて回る待ち時間がほとんどありません。マーケティングも、私の3分の稼働で回るようになりました。私がやるのは方向を決めること、聞かれたことに答えること、最後に確かめることくらいで、途中の作業を毎回私の判断待ちにしない形にしています。

挑戦者の自覚を持って、リスクを取る

テスラは2026年10月15日(米国時間)、テキサスにあるSpaceXの試験場で新しいロードスターの試作車を公開しました。報道によると、逆さまのコースから宙に飛び出し、圧縮空気の噴射で向きを変えて着地したり、並んだ車を飛び越えたりしています。ただし見せたのは短い跳躍や宙返りで、持続的な飛行ではありません。車は無人で、量産は2028年の予定、飛行できる仕様は招待制で、公道での使用はまだ認められていないと報じられています(Fortune、CBSほか)。空飛ぶ車が完成した、とまでは言えません。

それでも私が注目するのは、そこまで試して人前で見せてしまう姿勢です。これは私個人の見方ですが、日本には正しそうに聞こえる経営論や仕事論が多い一方で、経済は長く伸び悩み、世界を変えるような企業もほとんど生まれていません。見るべきは、言っていることが正しそうかどうかではなく、結果です。私たちはアメリカに置いていかれた挑戦者の側だと自覚し、リスクを取って試す回数を増やす時期だと考えています。

今週できること

先週いちばん長く止まった判断を1つ選んで、何日待ったかを書き出してみてください。次に、社長が決めなくていい判断を1つ選び、任せる人と、試してよい範囲と、外れたときの戻し方を決めます。任された人はAIに案を出させ、小さく試し、結果だけを報告する。それだけで判断の往復は一つ減ります。

あわせて、今月新しく試したことの数と、判断待ちで止まった日数を数えてみてください。AIの利用回数ではなく、試せた回数が増えているかどうかが、会社が速くなっているかの目安になります。

▶ 動画本編はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=r_DcHP9lPms