意思決定と組織 / 組織と経営者

人数ではなく成果から考える――群聯電子CEOの「AIで人を減らさない」発言から

会議室で、グラフを映した画面を前に経営者が社員と話し合う写真。見出しは「人数議論は人を傷つける結果を招く」

AIを入れると人は減るのか、減らさないのか。経営者の発言としても、ニュースとしても、この話題をよく目にします。

先に私の結論を書くと、そもそも人の数に注目すること自体が間違っていると考えています。人数を気にしているのは多くの場合働く側で、経営側もそれに応える形で「減らします」「減らしません」というメッセージを出します。でも、経営側が本当に見ているのは成果です。

群聯電子CEOの発言と、報道で確認できること

台湾の群聯電子(Phison)の共同創業者でCEOの潘健成さんは、AIを入れて人を減らすのは愚かなやり方だ、という趣旨の発言をしています(TVBSなど)。言葉が強いので、そこだけが広まりやすい発言です。

報道で確認できた内容は次のとおりです。聯合新聞網が10月14日の講演として伝えたところでは、社内のAIの使用率は9月に8割を超え、年末までにエンジニア500〜700人分に相当する成果を上乗せすることを目標にしています。検証のためのログ分析が3時間から30分になった例も紹介されています。また、AIの導入はトップが自ら率いて進めていると報じられています。6月の中央社の記事では、AIの専門チームを置き、人を減らすのではなく、より価値の高い仕事に人を回す方針が伝えられています。

私がいちばん注目するのは、目標の立て方です。「500〜700人分の成果を上乗せする」という数字は、何人減らすか、何人残すかではなく、どれだけ成果を増やすかの側にあります。言葉は働く人に向けたもの、数字は経営として追いかけるもの。そう読むと、この発言と私の考えはかなりの部分で重なります。

人数に着目した瞬間に、椅子取りゲームが始まる

人の数に注目するのは間違いだと言うと、人を大事にしていないように聞こえるかもしれません。意味は逆です。人数で議論を始めると、いちばん傷つくのは人です。

「何人減らせるか」という議論が始まった瞬間に、働く人は自分が減らされる側かどうかを考え始めます。人は人数に着目した瞬間に、椅子取りゲームを始めてしまう。周りは協力する仲間ではなく、椅子を争う相手に見えてきます。そうなると、AIを上手に使おうとする人はいなくなります。上手に使うほど、自分の椅子が危なくなるように感じるからです。

改革はゆるゆると止まり、優秀な人から抜けていく

椅子取りゲームが始まった会社でよく起きるのは、何も協力せずにゆるゆると進めるという防衛手段です。表立って反対はしないけれど、積極的にも動かない。改革が止まっている間に優秀な人が見切りをつけて辞めていけば、自分の椅子は守られる。はっきりとは言わなくても、そう望んでいる人は会社の中に少なくないと私は見ています。

先に人数ありきで議論をすると、優秀な人ほど抜けやすくなります。優秀な人は成果を出したい人で、外でも求められます。守りに入った人が残り、前に進めたい人が去る。人数の話から始めた会社が、いちばん大事な人材を失うことになります。

変革の中で人が入れ替わること自体は、起こりうると思っています。ただ、それは成果を追いかけた結果として起きることであって、最初から人数を目標にして始めるのとは別の話です。

今ある成果を伸ばす、成果が出ていない箇所を直す

では、何に集中すればいいのか。とても単純で、今ある成果を伸ばすことと、成果が出ていない箇所を直すことです。AIを入れるかどうか、何人でやるかは、その後の話です。

たとえば、問い合わせへの返信が速いほど受注につながっているなら、その返信をもっと速く、正確にする。見積もりの作成に時間がかかって取りこぼしているなら、そこを直す。成果の側から入ると、AIはそのための道具として自然に出てきて、誰かの椅子を奪う話にはなりません。私の経験でも、ここに集中したときの方がDXは進みやすかった例がたくさんあります。目的がはっきりしていれば、現場の人も協力しやすいからです。

AIで浮いた時間の行き先を、社長が先に決める

3時間かかっていた作業が30分になれば、2時間半が浮きます。この行き先を決めないまま進めると、浮いた時間は細かい作業で埋まって消えるか、「時間が浮いたなら人が余っているのでは」という人数の話に引き戻されます。浮いたのは人ではなく時間で、その時間はまだ行き先が決まっていないだけです。

行き先を決めるときの判断基準は、社長が会社をどうしたいか、どんな成果を望むかを明確にすることです。新しいお客さんを増やしたいなら提案や商談の準備に、今のお客さんの満足を上げたいならフォローや相談への対応に、新しい商品を作りたいなら開発や試作に回す。社長の望む成果が決まっていないと、この選択はできません。

決めたら、成果が動いたかを確かめる

決めたあとは、月に一度でいいので確かめます。決めた行き先に本当に時間が回っているか、その結果、成果が動いているか。見るのは何人いるかではなく、何が伸びたか、何が直ったかです。行き先ごとに確かめる項目を一つか二つ決めておけば十分です。

社員に伝えるときも、人数から始めない方がいいと思います。「この会社はこういう成果を目指している。そのためにこの作業を速くしたい。浮いた時間はここに使ってほしい」。この順番で話すと、聞く人の関心が自分の椅子ではなく成果に向きやすくなります。反対に、「AIで何人分浮いた」という数字を最初の報告の目玉にすると、現場はすぐに椅子の数を数え始めます。

明日からできること

椅子取りゲームの考え方を一度捨てて、まずは成果の最大化に集中する。これがこの回でいちばん伝えたいことです。

具体的には、自分の会社で伸ばしたい成果を一つ、直したい成果を一つ書き出してみてください。そして、AIで速くなった作業があるなら、浮いた時間をそのどちらに回すかを決めて、月末に確かめる。人数の話は、そのあとで十分です。

▶ 動画本編はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=C6Yb-cjwjXk