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AIに任せるのが怖いときに、先に決める三つのこと――戻せる運用と並行稼働

暗いオフィスで、スーツ姿の経営者が険しい表情でこちらを見つめる写真。見出しは「AIが怖い? 戻せばいい」

「AIに全部任せるのは怖い」という声を、今もよく聞きます。そして、その怖さを理由に、自動化の実装そのものが止まっている会社が少なくありません。慎重になること自体は悪くありません。ただ、私の答えははっきりしています。今はリスクを取る時期だと割り切る。そのかわり、運用をちゃんと戻せるようにしておく。そして、古いやり方と新しいやり方を並行して動かして、実験の期間を取る。この記事では、この三つを判断の基準として整理します。

10月18日の回では「AIは間違えるのだから、試す回数で勝負する」、10月20日の回では「会社の速さはAIではなく、人の判断の往復で決まる」という話をしました。今回はその続きで、実際に任せる段階になったとき、何を先に決めておけば踏み出せるのかを扱います。

怖いから進めない、進めないから見えない

一番多いのは、「AIに任せるのが怖いから、もう少し様子を見てから始めよう」という考え方です。一見、慎重で正しい判断に見えます。ところが、自動化は実際に作って動かしてみないと、何が起きるのか見えません。どこで間違えるのか、どこは任せて大丈夫なのか。それは動いている実物を見て初めて分かります。様子を見ているあいだは、見るべきものがそもそも存在しないのです。

怖いから進めない。進めないから実物が見られない。実物が見られないから、いつまでも怖いまま。会議で何度話し合っても、資料をどれだけ集めても、この輪からは抜けられません。抜け出すには、誰かがリスクを取ると決めるしかありません。会社の場合、それは多くは社長や事業の責任者です。現場に「失敗してもいいから」と言っても、責任を背負えない立場では動けないからです。

判断の基準1:今はリスクを取る時期だと割り切る

一つ目は、個別の判断ごとに怖さと向き合うのではなく、時期として先に決めてしまうことです。個別に考えると、どの判断にも反対する理由は見つかります。でも「今は進める時期だから、まずやってみる」という共通の前提があれば、現場は毎回お伺いを立てなくても前に進めます。

私たちの会社がまさにそうでした。先に「今はリスクテイクをする時期だ」と決めてから、自動化をどんどん進めました。一つずつ「これは任せて大丈夫か」と議論していたら、今も最初の一つで止まっていたと思います。結果として、社内のシステムのほぼ全体がつながり、マーケティングは私が手を動かす時間がだいたい3分ほどで回るようになりました。この状態は最初から設計できたものではなく、実物を動かしながら作っていったものです。

判断の基準2:運用を戻せるようにしておく

リスクを取ると決めることと、何も備えずに飛び込むことは違います。二つ目の基準は、運用を戻せるようにしておくことです。具体的には、何をいつ変えたかを記録に残す。新しいやり方がうまくいかなかったとき、元のやり方に戻す手順を先に決めておく。結果を確認する場所を決めておく。この三つがそろっていれば、失敗しても会社が止まることはありません。

戻せる準備はブレーキのように聞こえますが、私はむしろアクセルだと考えています。戻せないと分かっていたら、誰でも怖くて慎重になります。戻せると分かっていれば、思い切って試せます。慎重さが必要なのは、戻せない判断のときです。戻せる判断なら、速く決めて、試して、だめなら戻せばいい。戻せない形で全部を一度に変えるのは賭けに近いですが、前に進む判断は大胆に、運用は戻せるように、という組み合わせなら、何度でも試せる形のリスクの取り方になります。

最初の戻し方は簡単で構いません。たとえば定型の報告書づくりを自動化するなら、「うまくいかなかったら、今まで通り担当者が手で作る。そのための元のひな形と手順は消さずに残しておく」。これだけでも立派な戻し方です。意外と多いのが、新しいやり方に移ったとたんに古い手順やひな形を片付けてしまうことで、そうすると戻りたくても戻れません。

判断の基準3:並行稼働で実験の期間を取る

三つ目は、並行稼働させて実験の期間を取ることです。新しい自動化を入れるとき、古いやり方をいきなり止めずに、しばらく両方を動かします。同じ仕事を両方で回して、出来上がったものに違いはあるか、間違いはどれくらい出るか、どこで人の手が必要になったかを見比べます。新しいほうで問題が出ても、古いほうが動いているので仕事は止まりません。

両方を動かすと、その間は手間が一時的に増えます。それでも、いきなり切り替えて仕事が止まり、取引先や社内に迷惑がかかったときの立て直しに比べれば、しばらく二重に動かす手間は、安全のための費用として小さいことが多いと考えています。期間はあらかじめ区切り、始めるときに終わりの確認日も決めておきます。並行稼働はずっと続けるためのものではなく、安心して切り替えるための期間です。

そして、リスクの検証は多めに取ります。進むと決めたからといって、確かめる量を減らすわけではありません。止まっている会社には検証する実物がありません。動かしているから検証ができる。リスクを取って進むことと、リスクを多めに確かめることは、同じ方向を向いています。

日々の手入れは常駐エージェントに、続けるか戻すかは人に

自動化して統合したら完成、ではありません。むしろそこから、小さな不具合を直す、手順を少し変える、新しく分かったことを反映する、といった日々の手入れが始まります。ここは常駐エージェントがかなり受け持ちやすい領域です。一つ一つの作業が小さく、何をしたかが記録に残りやすいので、うまくいかなければ戻せるからです。人に残るのは、今のやり方を続けるのか、戻すのか、範囲を広げるのか、という判断です。記録は、誰がいつ見るかを決めておくことが大事で、たとえば週に一度、決まった人が見比べた結果を確認します。

止まっているあいだにも、他社は進む

止まっていても今の状態が続くだけなら損はしない、というのは大きな勘違いだと思っています。自分の会社が止まっているあいだも、他の会社は試して、失敗して、直して、また試しています。試した回数の差は、そのまま経験の差になり、後から取り戻しにくい。動かないことにも、はっきりしたリスクがあります。また、戻せる形で試して戻したのは失敗ではなく、一つ分かったという成果です。試した人を責めないことも、リスクを取る時期を宣言した社長の大事な仕事です。

今週できること

怖くて止まっている自動化を一つ選んでください。毎日か毎週繰り返し発生していて、結果が目で確認しやすい仕事が向いています。次に、元に戻す手順を書き出します。そして、今のやり方と並べて動かす期間と、終わりの確認日を決めます。現場に伝えるときは、「今はリスクを取って進める時期にする。そのかわり、必ず元に戻せる形で進めること。しばらくは今のやり方と並べて動かして、結果を見比べること」と、進めていいことと守ってほしいことをセットで伝えるのがよいと思います。

▶ 動画本編はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=kVcRCXfevYY