組織改革は「機能」で戻せる形にする
2026-06-05
サントリーの西田新社長が打ち出した組織変革が話題です。酒類事業を、従来の事業部制から「機能軸」へ移すという大胆な判断。ビールやウイスキーといった商品カテゴリーごとに分かれていた組織を、マーケティングや生産といった機能ごとに再編する動きです。
このニュースを「戻れる経営」の視点で見ると、興味深い点があります。大きな変革には痛みも伴いますが、その一方で、この変革には組織改革の「可逆性」を考えるヒントが隠されているのです。
なぜ「機能軸」への移行が注目されるのか
酒類業界はいま、かつてない変革期にあります。酒税の一本化、消費者の嗜好の多様化、そして何よりビール市場の縮小。各事業部が独立して戦略を立てるこれまでの体制では、全社最適の判断が難しくなっていました。
そこでサントリーが選んだのが、機能軸への移行です。マーケティング、営業、生産といった機能ごとに組織を組み直し、リソースの重複をなくして、全社的なシナジーを生み出す狙いがあります。
中小企業が組織改革で戻れなくなる3つのケース
ただし、中小企業の経営者に考えてほしいのは、組織改革にはいつも「戻れなくなるリスク」が潜んでいるということです。サントリーのような大企業と違い、中小企業には改革に失敗したときの余裕がほとんどありません。
人に役割を固定してしまう
組織改革で最も危険なのは、人に役割を固定してしまうことです。「あなたは今日からマーケティング部長です」と決めてしまえば、その人が期待どおりに機能しなかったとき、後戻りは難しくなります。
ここで分かれ目になるのは、機能に人を合わせる設計なのか、人に機能を合わせる設計なのかです。サントリーの機能軸への移行は、人が機能に合わせる設計にあたります。この形なら、人が入れ替わっても機能は残るため、可逆性が高まります。
制度や契約で責任を曖昧にする
組織改革では新しい役割や責任範囲を定義しますが、それが曖昧だと後戻りが難しくなります。「とりあえずこの部署でやってみよう」という曖昧なスタートは、やがて「誰が何を決めるのか」をわからなくし、改革そのものを頓挫させる原因になります。
実態をつかまないまま進める
「機能軸に変えれば効率が上がるはずだ」という思い込みだけで進めるのは危険です。現場の業務の流れ、顧客との接点、情報の伝わり方を観測しないまま改革を進めると、想定外の弊害が生まれます。
「戻れる組織改革」の3つの条件
では、中小企業の経営者がサントリーの事例から学ぶべき「戻れる組織改革」の条件とは何でしょうか。
1. 評価期間を先に決める
改革を始める前に、「いつまでに、何を基準に判断するのか」を決めておきます。「3ヶ月後に売上目標の達成度を評価する」のように具体的な評価期間を置けば、改革の効果を客観的に測れます。
2. 観測すべきポイントを明確にする
効果を測るために何を観測するのかも、先に決めておきます。「部門間の情報共有の頻度」「顧客対応のスピード」「社員の満足度」など、定量・定性の両面から指標を設定します。
3. 失敗したときの戻し方を決めておく
これが最も重要です。うまくいかなかったとき、どこまで戻すのか、どの部分を修正するのかを事前に決めておきます。すべてを元に戻すのか、一部だけ直すのか。撤退条件がはっきりしていれば、戻ることへの心理的なハードルも下がります。
サントリーの改革に見る「可逆性」の本質
組織改革を「決定」ではなく「実験」として捉える。これはまさに「戻れる経営」の本質です。そう捉えれば、失敗したときのダメージを最小限に抑えられます。
機能軸への移行が「戻れる」理由
機能軸への移行は大きな変更に見えますが、実は戻れる設計になっています。機能ごとに組織を組み直しても、各機能の責任者はこれまでの事業部での経験を持っているからです。必要になれば、再び事業部制に戻すこともできます。
その土台にあるのが、人に役割を固定しないという原則です。人が機能に合わせる設計だからこそ、人が変わっても機能は維持されます。
中小企業が今日からできる「戻れる組織改革」
最後に、中小企業の経営者が今日から実践できる具体策を紹介します。
まずは「仮置き」から始める
組織改革を一気に進めるのではなく、特定の部門だけを機能軸に変えてみます。たとえばマーケティング部門だけを機能別に再編し、3ヶ月間テストする。その結果を見て、全社に広げるか、元に戻すかを判断します。
「例外扱い」として始める
改革を本格的な変更としてではなく、例外扱いとしてスタートさせます。「この部署だけ、3ヶ月間だけ、機能軸でやってみる」という形にすれば、失敗したときの心理的なコストを下げられます。
「戻し方」を最初に決める
改革を始める前に、必ず戻し方を決めておきます。「3ヶ月後に売上が前年比90%を下回ったら、元の事業部制に戻す」といった具体的な条件を設定します。
まとめ:失敗を前提に設計するから、大胆になれる
サントリーの組織変革は、大企業だからこそできる大胆な判断かもしれません。しかし、その根にある可逆性の考え方は、むしろ中小企業こそ取り入れるべきものです。
組織改革を「決定」ではなく「実験」として捉え、評価期間・観測ポイント・戻し方を先に決めておく。これこそが「戻れる経営」の真髄です。
失敗を前提に設計するからこそ、大胆な挑戦ができます。あなたの会社の組織改革も、まずは戻れる形から始めてみてはいかがでしょうか。