経営とIT、4割が別物扱いの危険
2026-05-15
サイボウズが発表した「経営戦略に対するIT戦略の位置づけに関する調査」で、衝撃的な数字が明らかになりました。約4割の企業が、経営戦略とIT戦略を「個別に位置づけている」と答えたのです。
10社中4社では、経営の方向性とIT投資がばらばらに動いているかもしれない。長年言われてきた「経営とITの乖離」を裏づける数字と言えるでしょう。
なぜこうした状況が生まれるのか。そして、この分断は企業にどんなリスクをもたらすのでしょうか。
IT戦略が「目的」を失う構造
経営戦略とIT戦略を個別に位置づけているということは、IT投資の目的が経営目標と噛み合っていない可能性が高いということです。
経営戦略では「新規顧客の開拓」を掲げているのに、IT戦略は「既存システムの安定運用」だけを目的にしている。あるいは、経営が「コスト削減」を最優先する一方で、IT部門は「最新技術の導入」を追い求めている。
こうした状態では、IT投資の成果を経営目標で測ることができません。その結果、「IT投資にROIが出ない」という悪循環に陥ります。
目的関数の分裂が生む混乱
私がこれまで見てきた企業の多くでは、ITの目的が部門ごとに異なる「目的関数の分裂」が起きていました。
営業部門は「売上向上のためのツール」を、経理部門は「正確なデータ管理」を、情シス部門は「セキュリティと安定性」を求める。どの要望ももっともですが、全体として統一された方向性がないため、導入したツールは連携せず、かえって業務効率が落ちることも少なくありません。
根本原因は、経営がITの目的を定義してこなかったことです。経営戦略とIT戦略を別々に位置づけるのは、ITの目的を現場任せにしているのと同じことなのです。
採用DXに学ぶ「目的起点」のIT実装
同じニュースで紹介されている「デジタル化・DX推進展」には、採用DXをテーマにした「らくるーと」が出展しています。採用DXは、経営戦略とIT戦略を統合する好例です。
採用活動は、経営戦略の根幹である「人材確保」に直結します。優秀な人材を効率よく採用できるかどうかは、企業の成長を左右します。採用DXに取り組む企業は、「どんな人材を、どんなプロセスで、どれくらいのコストで採用するか」という経営目標を明確にしたうえで、ツールを選んでいます。
ある企業は、「応募者数よりも入社後の定着率を重視する」という経営判断のもとで、適性検査ツールや面接評価システムを導入しました。この場合、IT投資の成果は「定着率の向上」で測られます。経営目標とIT投資の目的が一致しているからこそ、効果を検証できるのです。
経営者がITを「定義」する方法
経営戦略とIT戦略を統合するには、経営者がITを「意思決定装置」であり「再現性の設計手段」でもあるものとして、定義し直す必要があります。
3つのIT分類で考える
具体的には、IT投資を次の3つに分類し、それぞれの目的と評価基準を明確にします。
- 事業IT:成長・売上に直結するIT。速度重視。例:マーケティングオートメーション、CRM。評価基準:売上増加率、リード獲得数。
- 経営IT:意思決定・再現性のためのIT。統合重視。例:BIツール、経営ダッシュボード。評価基準:意思決定の迅速性、データの正確性。
- 管理IT:安定運用・コスト管理のIT。安定重視。例:会計システム、給与計算システム。評価基準:ダウンタイム、運用コスト。
この分類に沿って、一つひとつのIT投資の目的を経営戦略と結びつけます。「事業IT」への投資は経営戦略の「売上目標」と、「管理IT」への投資は「コスト削減目標」と直接つなげる。そうすれば、IT投資の効果を経営指標で測れるようになります。
「約4割」という数字が意味するもの
サイボウズの調査で出た「約4割」という数字は、決して楽観できるものではありません。むしろ、IT投資の失敗リスクを抱えた企業の割合だと考えるべきです。
経営戦略とIT戦略が別々に動いている企業は、次のようなリスクに直面します。
- 投資の重複:似た機能のツールを複数導入するムダが生じる。
- データのサイロ化:部門ごとに異なるシステムを使うため、データが統合できず、全体最適の意思決定ができない。
- 属人化の進行:特定の担当者しか使えないシステムが増え、その人が退職すると運用が止まる。
- 変化への対応の遅れ:経営環境の変化に合わせて、ITを素早く変えられない。
こうしたリスクを避けるには、IT戦略を「経営戦略の一部」として捉え直す必要があります。IT部門やベンダーに任せるのではなく、経営自らがITの目的を定義する。それが、IT投資を成功に導く唯一の道です。
まとめ:経営戦略とIT戦略の統合が不可欠
サイボウズの調査は、日本企業の多くが経営とITの分断という構造的な問題を抱えていることを示しました。これを解決するには、経営者がITを「経営資源」として定義し、経営戦略とIT戦略を一つに統合する必要があります。
具体的には、次の3つのアクションを提案します。
- IT投資の目的を経営目標と紐づける:すべてのIT投資について、「何のために」「どんな成果を期待するか」を明確にする。
- 3つのIT分類を導入する:事業IT、経営IT、管理ITに分け、それぞれの評価基準を設定する。
- IT投資の効果を定期的に検証する:経営会議でIT投資の成果を報告し、必要に応じて軌道修正する。
ITは「専門家に任せる技術領域」ではありません。経営が直接定義し、設計すべき経営資源です。この認識を持たない限り、IT投資の失敗は繰り返されるでしょう。経営戦略とIT戦略を統合すること。それが、これからの時代に経営者が負うべき責務です。