フォレンジックが変える情シスの守り方

ランサムウェアや不正アクセスの被害報告が後を絶ちません。多くの経営者が「予防」に頭を悩ませていますが、実は「攻撃を受けた後の対応」こそが、事業継続の分かれ目になります。

最近、クロス・ヘッド株式会社とBLACKPANDA JAPANが「ファストフォレンジックサービス by 情シスSAMURAI」の提供を始めました。情シスSAMURAIの契約企業向けのオプションで、サイバー攻撃の初動対応を専門家に委託できるサービスです。

「フォレンジック」とは、デジタル機器に残った証拠を保全し、分析する技術のこと。攻撃の痕跡を調べ、原因の特定や復旧に役立てます。これまでは大企業や専門部隊しか使えない高価なサービスでしたが、事前契約のサブスクリプション型で、中小企業でも備えやすい形で登場しました。情シスがいない、あるいは少人数の企業にとって、ITセキュリティの考え方を根本から変えうるニュースです。

「丸投げ」ではなく「守備範囲の明確化」

ITmediaの記事では、「情シス丸投げDXで成果が出ない」という調査結果が紹介されていました。外部に丸投げするだけではIT導入の目的が曖昧になり、結局使われないシステムが増える、という指摘です。

今回のフォレンジックサービスは、そうした「丸投げ」とは性質が違います。経営者が決めるべきは、「何を内部で守り、何を外部に頼むか」という線引きです。

サイバー攻撃の初動対応は、まさに外部の専門家に委ねるべき領域です。理由は3つあります。

1つ目はスピードです。攻撃の発生から数時間以内に対応できるかどうかで、被害の大きさが決まります。情シスが1人しかいない企業で、調査と復旧を同時に進めるのは不可能です。

2つ目は専門性です。フォレンジックには、証拠保全の手順や法的な知識が欠かせません。誤った操作で証拠が消えてしまえば、保険請求や刑事告訴が難しくなります。

3つ目はコストです。専門家を常駐で雇うより、必要なときだけ呼べるサービスのほうが現実的です。

守るべき範囲を経営が定義し、その一部を外部に委ねる。これこそが、IT戦略のあるべき姿です。

都城市の事例が示す「デジタル化の本質」

あわせて注目したいのが、宮崎県都城市の取り組みです。同市はGMOサインの電子公印サービスを導入し、申請から通知までを完全にデジタル化しました。

行政手続きのデジタル化自体は珍しくありません。都城市の事例で重要なのは、「申請から通知まで」を一貫してデジタル化した点です。よくある失敗は、申請だけをデジタル化し、内部処理や通知は紙のまま残って、かえって二度手間になることです。

この事例が経営に示しているのは、「部分最適ではなく全体最適を設計する」という原則です。IT導入を「何かをデジタル化すること」ではなく、「業務の流れ全体を設計し直すこと」として捉える必要があります。

フォレンジックサービスも同じです。攻撃を受けた後の「調査→復旧→報告→改善」という一連の流れを、外部委託も含めて設計しておく。それができている企業とできていない企業とでは、被害の大きさが桁違いになります。

情シスSAMURAIが示す「頼れる外部部隊」の価値

「情シスSAMURAI」というサービス名には、外部のプロフェッショナルが盾となって企業を守る、というメッセージが込められているのでしょう。

このサービスは事前契約型で、インシデントが起きたときには証拠の保全と初期調査という「応急処置」を迅速に行います。調査や復旧にかかる費用を補償するサイバー保険も組み合わされています。

中小企業にとって、これは非常に心強い選択肢です。セキュリティ対策の最大の壁は、「予算」と「人材」だからです。

「うちは小さすぎて狙われない」と考える経営者は少なくありません。しかしランサムウェアの攻撃は無差別です。むしろ、セキュリティの手薄な中小企業が狙われるケースも少なくありません。

予防に十分投資できないなら、せめて「攻撃された後の備え」は用意しておく。それが現実的な経営判断です。

経営者が今すべき「3つの備え」

最後に、このニュースを踏まえて、経営者がすぐに取り組むべきことを整理します。

1つ目は、フォレンジックサービスの契約を検討することです。「情シスSAMURAI」のようなサービスは登場したばかりですが、今後増えていくでしょう。事前契約で攻撃時の初動対応を確保できるなら、保険の一種として検討する価値があります。

2つ目は、BCP(事業継続計画)にサイバー攻撃を組み込むことです。自然災害だけでなく、サイバー攻撃も事業停止のリスクとして扱い、復旧手順を文書にしておきましょう。

3つ目は、外部委託の範囲を明確にすることです。ITのすべてを内製する必要はありません。ただし、何を委託し、何を自社で判断するのか、その線引きは経営者自身が行うべきです。

フォレンジックサービスは、まさに「守るべき範囲」をはっきりさせるための道具です。経営者がITから逃げず、主体的に選ぶこと。それが事業継続の鍵を握っています。

サイバー攻撃は、もはや特別な出来事ではありません。いつ起きてもおかしくないリスクとして、今日から備えを始めてください。