予算増の鍵は「経営言語」への翻訳力
2026-05-19
サイボウズが発表した調査結果が、情報システム部門の明暗を分ける「たった1つの違い」を浮き彫りにしました。予算が増加傾向にある情シスと、横ばいか減少傾向にある情シス。その差を生んでいるのは、規模や業種ではありません。
分かれ目は、「経営者が理解できる言葉でIT投資の価値を説明できるかどうか」です。技術の優劣ではなく、コミュニケーションの質の問題なのです。
予算が増える情シスは「攻め」を語っている
多くの情シス部門は、セキュリティ対策やシステムの安定稼働といった「守りのIT」を訴えます。しかし経営者から見れば、それらは「やっていて当たり前」のコストセンターの仕事にすぎません。予算が増える情シスは、IT投資を「売上拡大」「顧客満足度の向上」「新規事業の創出」といった経営目標に結びつけて説明しています。
調査でも、予算が増加傾向にある情シスの共通点として「事業部門との連携強化」が挙がっています。営業や製造、物流など現場の課題を聞き取り、それをITでどう解決するかを経営層に提案しているのです。
ある物流企業では、IT担当者がいない状態から出発し、現場の「Excelでよくね?」という抵抗を乗り越えて、時間をかけて自走するDXを実現しました。その背景には、現場の業務プロセスを徹底的に理解したうえで、「このシステムを入れれば配送ミスがどれだけ減り、顧客満足度がどれだけ上がるか」を具体的な数字で経営層に語ったことがあります。
経営者が考えているのは「システムを入れたい」ではなく、「〇〇を達成したい」です。情シスが発信する情報を、経営者の関心事である「事業成果」に置き換える力が求められています。
なぜ「経営言語」への翻訳が必要なのか
ここで大事なのは、ITの専門用語を消すことではありません。「なぜそのIT投資が必要なのか」を、経営判断の基準に合わせて語ることです。
多くの経営者はITに詳しくありません。関心があるのはクラウドやAIといった技術そのものではなく、それが自社の成長にどう効くかです。このギャップを埋めるのが情シスの役割です。
「目的関数の分裂」を防ぐ
ITは「事業IT」「経営IT」「管理IT」の3つに分けて考えることができます。予算が増えない情シスは、このうち「管理IT」、つまり安定運用やコスト削減の視点だけで経営層と話している可能性が高いといえます。
予算が増える情シスは、「事業IT」、すなわち成長や売上の視点を経営層と共有しています。経営層が最も重んじる「成長」という目的関数にIT投資を結びつけることで、投資判断の基準がはっきりするのです。
たとえばクラウド導入を提案するなら、「サーバーの維持費が減らせます」ではなく、「クラウド化で、新規顧客向けサービスの開発期間を3ヶ月短縮できます」と伝える。この違いが、経営層の「投資したい」という決断を引き出します。
翻訳力を身につける3つの実践
では、具体的にどんな力が必要なのでしょうか。予算が増える情シスが実践していることを3つ紹介します。
1. 事業部門との「共通言語」を持つ
IT部門の中だけで完結する提案は、経営層に響きません。営業部門のKPI(売上高、受注率、顧客単価)や製造部門のKPI(生産効率、不良率)を理解し、それをITでどう改善できるかを語れることが大切です。
CRM(顧客管理システム)の導入なら、「営業の商談管理をシステム化してアプローチ漏れを防ぎ、受注率を5%向上させます」と伝える。これなら経営者も投資対効果を具体的に思い描けます。
2. 「デジタル化」の先にある「DX」を描く
アナログ業務を電子化するだけのデジタル化ではなく、デジタルによる業務変革、つまりDXのビジョンを示すことです。東京都や岡山市が実施する「中小企業デジタル化支援事業」も、ツールの導入にとどまらず、業務プロセス全体の見直しを促しています。
「このシステムを入れれば、週に10時間かかっていた作業が1時間になり、空いた時間を新規顧客の開拓に回せます」。時間の使い方がどう変わるかまで示せれば、説得力は格段に増します。
3. 小さな成功体験を積み重ねる
いきなり大規模なシステム投資を持ちかけるのではなく、小さなプロジェクトで成功例をつくるのも有効です。チャットツールの導入で社内のやりとりが活発になった、RPAで単純作業を自動化できた。そうした実績を重ねて、経営層のITへの信頼を勝ち取っていきます。
トーシンパートナーズホールディングスの情報システム部長が登壇した講演でも、小さな改善の積み重ねが全社的なDX推進の原動力になったと報告されています。
まとめ:情シスの役割は「翻訳者」である
予算が増える情シスと増えない情シスの違いは、技術力でも予算規模でもありません。「経営者の言葉でITの価値を語る翻訳力」です。
ITはもはや専門家だけの領域ではなく、経営戦略と直結してはじめて価値を発揮する経営資源です。情シス部門は、技術の専門家である前に、経営と現場を結ぶ「橋渡し役」であるべきです。
もしあなたの会社の情シスが予算の獲得に苦しんでいるなら、一度「経営層に伝わっているか」を疑ってみてください。技術の話ではなく、事業成長の話をしているか。その問いが、予算増への第一歩になります。