「SaaS解約時代」のIT投資戦略:インフラを固め、AIで「自分で作る」選択肢

最近、クライアントとの会話で変化を感じています。「あのSaaS、もう解約しました」「新規導入は見送りました」。大型ツールの導入も減りました。これは単なるコスト削減ではありません。IT投資の考え方そのものが、大きな転換点を迎えているのです。

<p>こんにちは。IntelligentBeast LLC.の後藤穂高です。</p>
<p>経営者やCTO、情シスの皆さまとお話ししていると、ある共通の「疑念」が見えてきます。「SaaSを入れるより、今なら自分たちで作ったほうが早くて楽なのでは?」というものです。今日はこの変化の本質と、これからのIT投資戦略について、私の視点からお話しします。</p>

<h2>1. 大型SaaS導入の時代が終わり、「解約」の波が来ている</h2>
<p>数年前まで、業務効率化の答えははっきりしていました。SalesforceやWorkdayのような、パッケージ化された強力なSaaSを導入することです。しかし、状況は一変しました。</p>
<p>導入時の華々しさとは裏腹に、運用が始まると課題が次々に積み上がります。自社の業務フローに合わせるには、高額なカスタマイズが要る。ライセンス費用は毎年かさむ。そして何より、「使いづらい」という本音が社内に溜まっていきます。</p>
<p>その結果、多くの企業が「解約」を選び始めています。これはITコストの見直しにとどまる話ではありません。自社の重要な業務プロセスを外部サービスに「預ける」ことのリスクと、その対価に見合う価値が本当にあるのか。そうした根本的な問い直しなのです。</p>

<div class="note">
    <p><strong>筆者の現場から:</strong></p>
    <p>先日、中堅企業の情シス担当者から「営業管理ツールをSaaSから自社開発に切り替えたい」という相談を受けました。理由は、「営業の独自の商談フローに、既存ツールがまったく合わないから」。カスタマイズ費用を積み上げてみると、初期開発費用を上回る計算になったそうです。</p>
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<h2>2. 「自作したほうが早い?」の正体と、AIの衝撃</h2>
<p>「SaaSを入れるより自作のほうが早い」という感覚は、どこから来るのでしょうか。背景には、二つの大きな変化があります。</p>
<p>一つは、クラウドインフラと開発ツールの劇的な進化です。AWSやGCPなどのプラットフォームが成熟し、サーバー構築やデータベース設定は以前よりはるかに簡単になりました。開発の土台が整ったのです。</p>
<p>もう一つが、AI、とくに生成AIの登場です。これはまさにゲームチェンジャーです。経営者の方から、こんな言葉を聞くようになりました。「ChatGPTに仕様を話せば、コードを書いてくれるらしい。それなら、思った通りのツールを自分で作れないか?」</p>
<p>この発想は画期的です。経営者が「ITの消費者」から「創り手」へと変わる可能性を秘めています。もちろん、すべてのシステムを経営者が作れるわけではありません。それでも、部門ごとの小さな業務ツールやデータ集計の自動化スクリプトなど、「あったらいいな」をすぐ形にできる環境は整いつつあります。</p>

<h2>3. 新しいIT投資の核心:インフラを固め、その上でAIを「仕組み化」する</h2>
<p>では、これからのIT投資はどうあるべきでしょうか。私の考えははっきりしています。</p>
<p><strong>投資の重点を「アプリケーション層」から「インフラ層」へ移すべきです。</strong></p>
<p>具体的には、安定したサーバー環境、安全なネットワーク、整理されたデータ基盤(データレイク/ウェアハウス)の構築にリソースを集中させます。家に例えるなら、土地を整え、頑丈な基礎と骨組みをつくる作業です。</p>
<p>この堅牢なインフラがあって初めて、AIは真価を発揮します。AIは魔法の杖ではありません。良質なデータが流れる安定した土壌があってこそ、意味のある成果を生みます。</p>
<p>そして大切なのは、AIを「仕組み」に組み込むことです。単発のデモや実験で終わらせず、日常業務の一部として回り続けるように設計する。たとえば、受注データがデータベースに入ると、AIが自動で需要予測を更新し、ダッシュボードに反映する。そうした「流れ」をつくり込むのです。</p>

<div class="note">
    <p><strong>具体的な一歩:</strong></p>
    <p>まずは、社内のデータがどこに、どんな形で散らばっているかを見える化しましょう。Excel、Googleスプレッドシート、各SaaSのデータ……。それらを安全に一か所へ集められる基盤(クラウドストレージやDB)を整える。すべてはそこから始まります。</p>
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<h2>4. 経営者・CTO・情シスに求められる発想の転換</h2>
<p>この変化がもたらす気づきは、立場によって異なります。</p>
<p><strong>経営者にとって</strong>は、ITを「買うもの」から「育てる土台」へと捉え直す視点が必要です。AIを使って自ら小さなツールを作る体験は、デジタル時代の経営の本質をつかむ、何よりの学習機会になるでしょう。</p>
<p><strong>CTOにとって</strong>は、技術選定の軸が変わります。特定のベンダーへの依存から抜け出し、オープンで柔軟な技術スタックをいかに築くかが問われます。チームの役割も、SaaSの管理者から、価値を生み出す仕組みの設計者へと移っていくはずです。</p>
<p><strong>情シスにとって</strong>は、大きなチャンスです。これまでの主な仕事は「導入とサポート」でした。これからは、「社内の課題を見つけ、それを解決する最適な仕組み(買うか作るか)を提案する」という、より戦略的で創造的な役割へ移っていけます。AIを使った内製化の支援は、その中核となるスキルです。</p>

<h2>5. まとめ:所有と自律のバランスを取り、自社の「デジタル体質」を強くする</h2>
<p>SaaS解約の流れは、ITが「消費」から「創造」へ戻りつつあることを示しています。とはいえ、すべてを内製化せよという極端な話ではありません。</p>
<p>大切なのはバランスです。差別化の源泉となるコア業務は「所有」して自社で育て、汎用的な機能は「利用」してSaaSなどで調達する。AIとクラウドの進化によって、この判断が以前よりはるかに自社に有利に働くようになったのです。</p>
<p>まずは、自社のITインフラという「土台」を見直してみてください。そのうえで、「この業務プロセス、AIで少しでも自動化できないか?」「このちょっとした不便、簡単なツールで解決できないか?」と問いかけてみてください。</p>
<p>答えは外部のベンダーではなく、あなたの会社の中にあるかもしれません。これからのIT投資は、自社の「デジタル体質」を根本から強くするための投資であるべきだと、私は考えています。</p>

<div class="author">
    <p>Hodaka Goto (後藤穂高)</p>
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