AI活用展が示す「実践フェーズ」と企業が取るべき3つの行動
2026-03-12
Japan DX Week 春2026「第9回 AI・業務自動化展」が開催されます。ニュースとしては展示会の告知にすぎません。それでも、回を重ねる展示会の変化は、市場の成熟度を映す鏡です。第1回が「AIとは何か」を説明する場だったとすれば、第9回は「どう使うか」を実演する場に変わっています。出展社のバーチャレクスも、AIを活用した業務自動化ソリューションを提供する企業です。展示会の役割は、技術の紹介から実装の相談へと移りつつあるのです。
この変化は、AI活用が「実験フェーズ」から「実践フェーズ」に入ったことを示しています。経営者やCTOが展示会に足を運ぶ目的も、もはや最新技術の情報収集だけではありません。自社の具体的な課題に対して、どのベンダーのどのソリューションを、どれだけのコストと期間で導入できるのか。その判断材料を探しに行くのです。展示会は、比較検討のための「実物大ショールーム」としての性格を強めています。
「9割修正」の調査結果が突きつける現実
一方で、サンクスラボキャリアの実態調査は厳しい現実を伝えています。生成AIを活用した業務のうち、9割で出力後の修正作業が発生しているというのです。しかも、その修正に伴う「待ち時間の積み重ね」が新たな課題になっています。AIが生成したドキュメントやコードを、人間がチェックし、直し、承認する。このプロセスに思いのほか時間がかかり、かえって非効率になっているケースが少なくありません。
この「9割修正」の壁は、SaaS型の汎用AIツールをそのまま導入した企業で起こりがちな現象です。自社の業務フローやナレッジに合わせて調整されていないAIでも、「そこそこ使える」出力は出します。しかし、それを実務で使えるレベルまで磨き上げる作業は、結局人間に残されます。それが「待ち時間」となって、プロジェクトのボトルネックになるのです。調査結果は、SaaS依存の限界をはっきりと示していると言えるでしょう。
自治体事例に学ぶ「現場の声」を組み込む設計
ここで大切な示唆を与えてくれるのが、abeam.comが報じた行政機関の生成AI活用事例です。重視されているのは、「現場の声を反映した安全で利便性の高いAI環境」の構築です。行政事務には独特のルール、フォーマット、審査基準があり、それらを無視した汎用AIはほとんど役に立ちません。
そのアプローチは、まず現場で繰り返される定型作業や、職員がよく参照するマニュアル・条例を特定するところから始まります。そのうえで、それらのデータを学習させて行政事務に特化したAIモデルを構築する。あるいは、汎用AIの出力を自前のルールで自動的に校正し、フォーマットを変換する「ラッパー」を開発する。この「特化」こそが修正作業の割合を大きく減らし、本当の効率化をもたらす鍵なのです。
経営者が今、取るべき3つの具体的行動
展示会の進化、調査結果が示す現実、先行事例の教訓。これらを重ね合わせると、経営者やCTOがいま取るべき行動が見えてきます。SaaS依存から段階的に抜け出し、内製化へ慎重かつ確実に移っていくことです。そのための3つのステップを提案します。
1. 業務の「AI適応度」診断と優先順位付け
まず、自社のすべての業務を「AIによる自動化・高度化への適応度」で分類します。私のコンサルティングでは、次の4象限マトリクスを使うことがあります。
- 高頻度・定型性(最優先): 日次/週次レポート作成、メール応答テンプレート生成、簡単なデータ集計。ClaudeやChatGPT APIと、Google Apps ScriptやZapierを組み合わせれば、月額数万円で自動化可能。
- 高頻度・非定型(要カスタマイズ): 営業提案書作成、契約書レビュー、顧客対応。汎用AIの出力を自社フォーマットに変換する「ラッパー」の開発が必要。初期投資50〜200万円、月額運用費5〜15万円が目安。
- 低頻度・定型性(効率化効果大): 決算業務補助、人事評価サポート。RPAツールとAIの連携が有効。導入には業務分析に時間がかかる。
- 低頻度・非定型(現状維持): 高度な戦略策定、創造的な問題解決。現段階では人間主体で進め、AIは情報収集・整理の補助に留める。
この分類がなければ、予算とリソースを効果的に配分することはできません。
2. 「内製化の判断基準」を設ける
すべてを内製化する必要はありません。だからこそ判断基準が要ります。私は、次の3条件のうち2つ以上を満たす業務については、内製化(自社開発または特化モデルの構築)を真剣に検討すべきだとアドバイスしています。
- 業務の核心(コアコンピタンス)に直結する: 自社の競争優位性を生む独自のプロセスやナレッジを含む。
- SaaSでは修正コストが膨大になる: 調査にある「9割修正」が発生し、待ち時間がビジネススピードの足かせとなる。
- 中長期の利用が見込まれ、累積コストが大きい: 月額10万円のSaaSを3年使えば360万円。内製化の初期投資を上回る可能性がある。
たとえば、北摂の企業向けにプロダクト開発支援を展開するSweetLeap株式会社の事例(マピオン記事)は、地域や業界に特化した支援という「コア」の部分を、汎用ツールではなく自社でカスタマイズしたAIで実現しようとする動きだと読むことができます。
3. 多様な人材を巻き込んだ「共創モデル」の構築
AKKODiSビジネスサポートの事例は、きわめて示唆に富んでいます。同社は「障がいのある社員と共に創るAI活用モデル」を構築しています。これは単なるダイバーシティ施策ではなく、AI時代の強力な競争原理を体現する取り組みです。
AIの設計やプロンプトの開発には、多様な視点と、業務への深い「気づき」が欠かせません。定型業務に長年携わってきたベテラン社員、デジタルネイティブの若手、そしてこれまで業務の「デジタル化」の外側に置かれがちだった障がいのある社員。それぞれが持つ独自の感覚やニーズは、AIを「使いやすいツール」から「革命的な支援手段」へと引き上げるための、貴重な要件定義そのものです。
経営者がすべきことは、こうした多様な「現場の声」を集め、AI開発の要件に反映させる仕組みをつくることです。社内のワークショップでも、パートナー企業との協業でも構いません。大切なのは、AIの設計プロセスそのものを、開かれた共創的なものに変えていく視点です。
「展示会で商談」から「自社で実装」への転換期
2026年のAI・業務自動化展は、市場が成熟期に入ったことを告げるイベントになるでしょう。出展されるソリューションはよりモジュール化され、自社システムとの連携(API)が前提になっているはずです。ベンダーはもう「魔法のツール」を売るのではなく、「あなたの城(自社システム)を強化する建材」を提供する立場に移っています。
経営者やCTOの役割は、その建材を吟味し、自社の城にふさわしいものを選び、組み上げるための設計図を描くことです。その設計図の核には、自社のコア業務への深い理解と、それを支える多様な人材の声が反映されていなければなりません。
調査結果が示す「9割修正」の現実は、他社のソリューションをそのまま導入する「楽な道」の先に待つ落とし穴です。一方、自治体や先進企業の事例は、自らの手でカスタマイズし、特化させる「難しい道」の先にこそ、持続的な効率化と差別化があることを教えてくれます。これからの展示会は、その「難しい道」の最初の一歩を、具体的な道具とともに示す場になっていくのです。
いまこそ自社の業務を見つめ直し、どこを、どの程度、どのように「AI化」していくのか、その戦略的な青写真を描き始めるときです。青写真があって初めて、展示会場で交わされる商談は単なる購買ではなく、未来への確かな投資になります。