上場準備初期段階のガバナンス整備戦略
上場準備初期段階のガバナンス整備戦略
この発表では、上場を目指す企業がフェーズ3(上場準備初期段階)で取り組むべきガバナンス整備について詳しく解説します。企業成長に伴い多様化するリスクに対応しつつ、イノベーションを促進する文化を維持するための戦略を提案します。
経理・法務・総務・人事といったバックオフィス機能の強化は、上場審査に向けた基盤づくりの重要な要素です。各部門が連携しながら効率化と規律の両立を図り、持続可能な成長を実現するための具体的なアプローチを紹介します。
アジェンダ:上場準備初期段階の重点項目
1
リスク管理体制の確立
企業成長に伴うリスクの多様化・潜在化に対応する体系的な管理体制の構築
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柔軟性を持った組織整備
イノベーション文化を維持しながらガバナンス強化を進める組織づくり
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バックオフィスの構造改革
業務フローや手続きの効率化によるスピードと正確性の向上
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事業部門との連携強化
ガバナンス側と事業側の協力による実効性の高いルール・手続き構築
リスク管理体制の確立
1
リスクアセスメントの実施
事業リスク、コンプライアンスリスク、財務リスクなどを定期的に洗い出し、それぞれの優先度を設定します。特に上場審査で注目される項目については重点的な対策を計画し、経営陣と共有することが重要です。
2
リスクマネジメント方針の制定
組織全体で共有できるリスク管理の指針を明文化します。各部門の責任と権限を明確にし、リスク対応のプロセスを標準化することで、一貫性のあるリスク管理体制を構築します。
3
内部監査機能の拡充
独立した視点からリスク評価や内部統制のモニタリングを行い、その結果を経営陣にフィードバックする仕組みを強化します。定期的な監査計画に基づき、改善点を継続的に追跡していきます。
柔軟性を持った組織整備
トライ&エラーを許容する風土づくり
上場準備期においても革新的な試みを続けるため、失敗から学ぶ仕組みを社内に浸透させます。失敗事例を共有し、次の挑戦に活かすポジティブなフィードバックループを構築することで、新しいアイデアが生まれやすい環境を維持します。
組織体制の見直し
各部門の役割や業務範囲を再定義しながらも、実験的なプロジェクトを続行できる柔軟性を確保します。「保守的な体制」と「イノベーション促進」のバランスを取りながら、段階的に組織構造を最適化していきます。
ガバナンスとアジリティの両立
規律ある意思決定プロセスを導入しつつも、市場の変化に迅速に対応できる仕組みを残します。定期的な組織評価を通じて、硬直化していないか確認し、必要に応じて調整を行います。
バックオフィスの構造改革
現状分析と課題抽出
既存の業務フローや手続きを徹底的に分析し、非効率な部分や改善ポイントを洗い出します。部門横断的なワークショップを開催し、現場の声を集めることで実態に即した改善策を立案します。
新しいツール・サービスの導入
過去の慣例や属人的な方法に囚われず、クラウドサービスや業務オペレーションツールを積極的に導入します。特に自動化可能な定型業務については優先的にシステム化を進めます。
プロセスごとのKPI設定
経理・総務・法務など各機能で目標指標を明確化し、改善サイクルを確立します。数値化できる指標を設定することで、改革の効果を可視化し、さらなる最適化につなげていきます。
継続的な改善体制の構築
定期的なレビューミーティングを設け、改善点を常に探索する文化を醸成します。バックオフィス部門自体がアジャイルに進化し続ける組織となることを目指します。
事業サイドとの連携強化
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定期的な情報共有会議
事業戦略や開発方針を把握し、規程の変更や新規ルール策定時に反映させます。
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合同プロジェクトの推進
ガバナンス部門と事業部門が協働するプロジェクトを設置し、相互理解を深めます。
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実効性の高い運用設計
形式的な規制に終わらず、事業現場の実情を反映した実践的なコンプライアンス体制を構築します。
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フィードバックループの確立
導入したルールや制度の影響を定期的に評価し、必要に応じて調整・改善を行います。
事業部門とガバナンス部門が協力することで、単なる「規制」ではなく「事業成長を促進するルール」を作ることができます。双方の視点を取り入れながら、上場企業として求められる規律と、成長企業として必要な柔軟性を両立させる仕組みを構築します。
経理業務の高度化:月次決算の効率化
1
クラウド会計システムの導入
各種仕訳の自動化やリアルタイム管理を可能にするクラウド会計システムを導入します。銀行口座やクレジットカードとの連携により、データ入力の手間を大幅に削減し、人為的ミスを防止します。
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締めスケジュールの明確化
月次決算を翌月第○営業日までに完了させるなど、明確な締めスケジュールを設定し、全社で共有します。各部門の経費精算や請求書処理の締切を設け、遅延を防止する仕組みを構築します。
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経理担当者のスキルアップ
新しい会計基準やツールの学習機会を設定し、業務の専門性を高めます。外部セミナーへの参加や資格取得支援など、継続的な成長をサポートする環境を整えます。
キャッシュフロー管理の強化
与信管理の見直し
大口取引先(売掛・買掛)の与信管理を徹底し、資金繰りリスクを軽減します。新規取引先との契約前に財務状況を確認する手順を標準化し、支払い条件の交渉力を高めることで、キャッシュポジションを改善します。
中期投資計画を踏まえた予測
将来的な設備投資・人材投資も考慮した資金計画を作成し、定期的にレビューします。複数のシナリオを想定したシミュレーションを行い、資金調達の必要性を早期に把握することで、経営の安定性を高めます。
日次資金管理の徹底
日々の入出金状況を可視化し、予定外の資金流出や滞留を即座に把握できる仕組みを構築します。経営陣がリアルタイムで資金状況を確認できるダッシュボードを整備し、迅速な意思決定をサポートします。
会計基準の整備と管理会計の導入
国際財務報告基準(IFRS)対応
上場を見据え、日本基準からIFRSへの適用可能性を検討し、早期から移行準備を進めます。開示レベルの引き上げ(注記の充実、リスク情報の開示など)を段階的に行い、透明性の高い財務報告体制を構築します。
収益性分析とKPI設定
製品別・サービス別の採算ラインを明確化し、意思決定に活用します。各事業部門の責任者が自部門の収益状況を把握し、改善策を立案できるような分析フレームワークを提供します。
経営データの可視化
予実管理データを踏まえ、経営層や事業責任者が迅速に判断できるようにダッシュボードを整備します。重要指標のアラート機能を設け、計画からの乖離があった場合に早期対応できる体制を構築します。
社内規程の標準化と予実管理
100%
業務標準化率
経理業務プロセスを完全にマニュアル化し、伝票処理から支払処理までを一貫して標準化します。属人化を防止し、新任担当者でもスムーズに対応できるオペレーション体制を構築します。
90%
予算達成率目標
部門ごとの予算策定プロセスを確立し、事業計画に基づいた年度予算や四半期予算を設定します。責任者との合意形成を図りながら、現実的かつ挑戦的な目標を設定します。
月5回
予実分析頻度
実績比較のフォーマットを統一し、定期レポート化により問題点や差異を可視化します。原因分析と対策検討を定例化し、継続的な改善サイクルを回します。
総務部門の役割強化:社内規程・ルール整備

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現状評価
既存規程の網羅性と最新性を評価
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規程体系の再構築
必要な規程類を特定し体系化
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ドラフト作成と協議
各部門と連携して実効性確保
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承認・周知・運用
定期的な見直しサイクルの確立
労務管理やガバナンス強化の観点から、就業規則、コンプライアンス規程などの必要な規程類を定期的に見直し、最新の法令や事業環境に適合した内容に更新します。また、文書管理体制を整備し、各種契約書や稟議書の保管ルールを明確化します。検索性を高めるシステムを導入し、必要な書類にすぐにアクセスできる環境を構築します。
稟議制度の確立とIT環境の高度化

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意思決定の迅速化
承認プロセスの最適化
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透明性の確保
決裁状況のリアルタイム可視化
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ワークフローシステム導入
モバイル対応・履歴管理の実現
意思決定プロセスを可視化するため、稟議フローをオンライン化し、承認の遅延防止や進捗把握が容易になるようにします。ワークフローシステムを導入し、モバイル端末からでも承認が可能になるなど、迅速化・ペーパーレス化を推進します。
また、IT環境の高度化として、社内システムを段階的にクラウドへ移行し、セキュリティやアクセス権限管理を強化します。リモートワーク環境も整備し、場所を選ばない業務遂行を可能にします。情報セキュリティを強化するため、ISO27001取得を視野に入れた社内規程と運用手順の整備、社員教育を実施します。
法務体制の強化:契約書の標準化・テンプレート化
契約リスクを低減するため、主要取引・業務に関するテンプレートを作成します。NDA、取引基本契約、業務委託契約など、頻繁に使用する契約書のひな型を準備し、担当者が効率的に契約書を作成できる環境を整えます。
テンプレート利用状況をモニタリングし、随時アップデートを行うことで、法的リスクを最小化しながらも業務効率を向上させます。契約書管理システムを導入し、締結済み契約書の検索性を高め、更新漏れを防止する仕組みも構築します。
事業スキームの整理と機関法務
事業領域ごとの法的リスクを洗い出し、ビジネスモデルを法的観点から分析します。許認可やライセンス、特許・商標など知的財産関連も含めて検討し、リスク低減策を立案します。また、新法や改正法が事業に及ぼす影響を分析し、必要に応じて規程や契約を改訂します。
株主総会運営の円滑化に向けて、上場を視野に入れた株主への情報開示や招集通知作成、議事進行のシミュレーションを強化します。また、金商法や会社法等の要件を満たしたディスクロージャーを実施し、ステークホルダーの信頼獲得に努めます。
社内コンプライアンス教育とリーガルチェック体制
定期的な研修プログラム
全社員対象のコンプライアンス研修や、ケーススタディを交えたセミナーを定期的に開催します。実際の事例や判例を用いることで、具体的なリスク認識を深め、日常業務における適切な判断を促します。
早期リーガルチェック体制
新規案件や契約締結の段階で法務が関与し、後戻りリスクや訴訟リスクを最小化します。各部門との相談窓口を整備し、法務担当者へのアクセスを容易にすることで、問題の早期発見・解決を図ります。
行動規範の整備と周知
ハラスメント防止や情報漏洩防止に関する具体的なルールを設け、違反時の対応策を明文化します。全社員が理解しやすい形で発信し、定期的な確認テストなどで浸透度を測定します。
人事・労務:採用戦略の策定
企業の成長フェーズに合った人材要件を見直し、マネジメント層・エグゼクティブ採用を強化してガバナンス体制を支える人材を獲得します。上場企業としての組織体制を見据え、各階層の適正人数バランスを検討し、計画的な採用活動を展開します。
採用チャネルも多様化し、リファラル採用、SNS活用、ヘッドハンティングなど、幅広い手段を併用します。特に専門性の高いポジションについては、業界ネットワークを活用した採用活動を強化し、即戦力となる人材の確保を目指します。
労務管理の強化と退職時の対応マニュアル化
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勤怠管理システムの導入・運用
リモート勤務やフレックスタイム制にも対応できるシステムを選定し、規程と連動させます。勤怠データの自動集計により、労務管理の効率化と正確性向上を実現します。また、労働時間の適正管理によりワークライフバランスの推進にも寄与します。
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36協定の適正管理
時間外労働の上限規制を遵守し、違反リスクを回避するための管理体制を整備します。部門ごとの労働時間をモニタリングし、特定の部署や個人に負荷が集中しないよう、業務の平準化や応援体制の構築を行います。
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退職者の引き継ぎプロセス標準化
情報資産の取り扱いや顧客対応の引き継ぎ手順を明確にし、無駄な混乱を避けます。チェックリストを整備し、退職に伴う各種手続きの漏れを防止します。また、退職面談を実施し、退職理由や改善点を把握して組織改革や労働条件改善に活かします。
福利厚生の充実と従業員エンゲージメント向上
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健康経営の推進
定期健康診断やストレスチェック、産業医との連携を強化し、従業員の健康管理をサポートします。メンタルヘルスケアも充実させ、長期的に活躍できる職場環境を整えます。
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オフィス環境整備
休憩スペースや集中スペースの導入など、働きやすいオフィス改革を進めます。コミュニケーションを促進する共有スペースと、個人作業に集中できる静かなエリアをバランスよく配置します。
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エンゲージメントサーベイの実施
定期的な従業員満足度調査を行い、結果を踏まえたアクションプランを策定します。部署ごとにモニタリングを行い、継続的な改善を図ります。
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社内コミュニケーション活性化
社内SNSの活用や定例ミーティングの見直しなど、情報共有の仕組みを強化します。経営層からのメッセージ発信も定期的に行い、会社の方向性を共有します。
Phase3のガバナンス整備ポイントまとめ(前半)
ガバナンスとリスク管理
内部監査やリスクアセスメントを実施し、経営に対するチェックアンドバランスを機能させます。組織全体でリスク認識を共有し、適切な対応策を講じることで、上場企業としての安定性と信頼性を高めます。
経理・税務の高度化
経理フローの自動化や早期決算体制を整え、上場審査への対応力を高めます。財務の透明性確保と管理会計の導入により、経営判断の質を向上させ、投資家からの信頼獲得につなげます。
規程整備と意思決定プロセス
総務・法務部門を中心に、重要書類の管理や稟議フローを見直し、組織全体のコンプライアンスを底上げします。形式的な整備にとどまらず、実効性の高い運用を目指します。
Phase3のガバナンス整備ポイントまとめ(後半)
ITインフラの強化
クラウドサービスや情報セキュリティ基準(ISO27001等)の導入で、安全かつ柔軟な業務環境を実現します。デジタル化による業務効率向上と、セキュリティリスク対策の両立を図ります。
人事・労務の充実
成長を支える優秀人材を確保し、離職率低減や社員モチベーション向上につなげます。健康経営やエンゲージメント向上施策を通じて、持続可能な組織づくりを進めます。
バックオフィスの全体最適化
部門連携を強化し、重複業務や無駄を排除します。データ分析を活用した経営資源の最適配分により、コスト効率と品質の両方を向上させます。
柔軟なルール設計
イノベーション推進とガバナンス強化を両立する制度設計を行い、将来の上場を見据えた基盤づくりを進めます。事業部門との連携を密にし、実情に合ったルール作りを心がけます。
このフェーズでは、実験的な要素を残しながらも、ガバナンス・リスク管理・財務透明性を大幅に強化していくことが鍵となります。バックオフィス機能の高度化は事業拡大を支えるための重要な土台であり、各部門が協働して効率化と規律の両立を図ることで、上場準備を着実に進めることが可能になります。